展示期間中探していた携帯ラジオが、残り2日になってやっとでてきた。カメラバッグのポケットから。でも、さすがにもう在廊中には必要なかろう。
 
今回の展示、自作の写真器を使っていて空間がデフォルメされて写る。ゆがんで見える点に目が行きがちだろうし、それも大きな特徴ではあるのだが、より重要なのは、天地の秩序が崩壊していることである。
かつて写真をはじめた頃、ご多分に漏れず屋外の風景を手持ちで漫然と撮影したりするのだが、必ず空が写り、上が空という天地になるのに違和感があった。最初の展示は天地のないほぼ水平の対象の近接撮影で、同じネガからのプリント4点を90°ずつ回転させて展示したりした。しかし、天地があって奥行きがある、通常の遠近法に則った一般の写真を転倒させてみたところで、元の空間の構造はまったくゆるがない。
今回の写真器は、180°に近いきわめて広い視野角を持っている。ただし視野の中心は写らないが。35mm換算で28mm程度のいわゆる広角レンズでは対角線方向の画角が90°程度なので、その2倍近い広い視野を有している。これが単純な仕掛で歪曲されることにより、天と地がいつの間にか同居するという、通常のカメラで撮影した画像を画像処理で変形したのでは得られない奇妙な空間再現となる。
これは写真器の垂直方向の傾斜角次第で変化する。おそらく水平から45°までは地が写り込んで、天と地が交錯する。45°を超えて天頂近くを向くようになると、今度は頭上を越えた後方が地よりも優勢となり、前後が入り組んだ構図となる。単純なゆがみばかりでなく、このような空間そのものの転倒が今回の狙いである。
そしてまた、今回の写真器では、フィルムの乳剤面同士が向かい合うという、通常では起こりえない仕組となっている。フィルムの反射率は意外に高い。フィルムが対向し、その間に斜めから結像が入射することで、フィルムで反射した像が向かいのフィルム面に写る、という事態が発生する。特に明るい光源などが、突拍子もない場所に反射している。これは光学レンズのフレアやゴーストとはまったく異なる。この筒の中で複雑に反射しあった像が重なりあうという、光学的現象そのものの定着、それがこれらの写真であると理解している。
というようなことを話すつもりだったが、全体の中での位置づけのようなことを振られたのであまり話せず。
雨の中朝帰り。
あと1日。