国際出願へ。
もっと前に出すつもりが、決済通貨であるスイスフランが対円で上昇しており、総選挙が終わったら一段落するといった観測をうのみにしてぼーっと静観してるうちに3割近く上昇してしまい、外貨両替するにもできなくなった。すぐには出願できなかったにしても、外貨両替だけでもしておくことはできた。そのためだけにFXの口座を開設したのだから。スイスフランが安いうちに替えてプールしておけばよかった。などと考えながら日々為替レートを眺めていたが、ようやく下がり基調になってきた。外為相場については無知だが、相場というものにまったくなじみがないわけではない。それでもここしばらくの動きはまったく読めなかった。
もうちょっと待ってればかなり戻しそうだが、17日以降米国の出願料が上がる。1区分22スイスフランなので、2区分で44CHF。今日時点で1CHF101円前後だから、4,400円程度は上がってしまう。このつり上げは確定だが、相場は下がるとは限らないから、今週中に出願しておくほうが得策である。つまり、今日までだ。
英語圏EU全域と東アジアなどと気宇壮大に構想していたが、出願費用がかさみすぎるので米国と韓国だけにとどめておく。どこまで手を広げられるのか現時点ではまったく予想つかないし、大枚はたいてその地域で使わず、不使用で取り消されるような事態も充分ありうる。身の丈で行こうと。
ゆくゆく販路ができたら追加で出願すればいい。事後指定には国際事務局への基本手数料だけで300CHFかかるので、はじめから一括で出願するよりその分費用総額がかさむが、それはうまくいった場合にあとから振り返ってみてそう考えられるだけで、今回どっかで引っかかったらそうはいかない。なんせ国際出願なんてはじめてだし、弁理士の助けもないので、へまやって大コケするかもしれない。出願先が多いと失敗したときの痛手が大きすぎる。外国の事情についてはなにも知らないのだから、1回ですまそうとせず、今回得られるであろう知見を次回で役立てると考えた方がいい。それにEU一括で出願した方が費用負担は抑えられるけれど、審査が甘く実効的な抑止力が弱いらしくて、EU内の主要国に個別に出願した方がいいのかもしれないが、そのへんの事情もまだわからない。実務を積んで見極めがついてからの方がいい。そういうわけで控えめにしておく。インドやカナダなど国際出願制度の未加盟国が加盟した時点での事後指定をもくろんでいるから、どのみち追加の出願はしそうな気がする。その時にいっしょに出せばいい。
そんなわけで、国際出願の基礎費用を考えるとちょっと割高でもったいない気もするが、2カ国で書類作成。
英文の説明のネイティヴチェックを先週頼んだのにまだ返事がこないので、あきらめて適当英語を並べておく。具合が悪けりゃ直してくれるでしょ。
書類を特許庁の国際出願担当部署にFAXして書式のチェックをしてもらう。国内出願だと、相談業務等は天下り先と思われる独法に移管してあり、そこの職員が何となくやる気なくて事務的なのだが、国際出願担当は外部ではなくちゃんとした公務員のようだし、ずっと意欲的で、親切に教えてくれる。天下り前で比較的若いからだろうか。
国内出願での特許庁の審査官は、強大な権力を持ってわれわれの出願をばっさりと切り捨てる、試験官とか裁判官のような強圧的な存在だと感じていたのだが、国際出願となると、寄る辺なき身が唯一頼れる心強い味方のように思えてしまうのがおもしろい。特許庁内での国内出願と国際出願の窓口とは、通路を挟んで向かい合わせなのだけれど。
国内出願はありきたりなルーティンワークだが、国際出願は国益を代行するサポーターみたいな感じで張り合いがあるのだろうか。経産省の肝いりで、海外進出する事業者には便益を図るということだろうか。日本が国際出願制度に加盟したのはわりあい最近なので、特許庁を通じての国際出願を推進していこうと前向きなのか。国際の方が語学も必要だろうし優秀な人材が配置されてるのだろうか。とはいえ、官吏と業者との癒着を防ぐためという表向きで、その実個々の担当者が責任をとらないでいいシステムにするための悪名高い定期的な配置転換があるから、特許庁内の国内と国際関係部署程度では人材の差はなさそうでもある。
今日電話で応対してもらった職員は優秀だった。歳がいった感じの声のベテラン風で、つっこんだ疑問にも的確に答えてくれる。
疑問がいろいろ解決。聞いてみるものだ。心配していろいろ尋ねるのだが、特許庁内でもチェックするから最初からそんなにきっちりしなくてもいいと言われ気が楽になる。国内出願の場合、ちょっとまちがうと全部パーになりそうで、かなり神経を使って書類を確認するのだが、国際出願のこの親切さとケアの充実との差には面くらう。出願者の手落ちで高額な国際出願費用がふっとぶのは忍びないという親心かもしれない。でも国内出願だって安くはない。あるいは、国際舞台に立たせるのだから、落ち度があったら日本国特許庁の恥という意識なのだろうか。
何しろ国際出願とその先の各国個別の審査については入手できる情報がほとんどない。専門家であるところの弁理士さえ、相手国の弁理士に当該国の事情を聞くしかないそうだ。素人にわかるわけがない。有料の情報ならあるのだろうがアクセスのしようがない。英語なら公開情報もあるかもしれないが、日本語の情報でもろくすっぽ理解できないのに、英語でなんて検索すらおぼつかない。
そんななか、特許庁国際出願窓口の職員は頼もしいアドヴァイザーになってくれるのだ。言質を取られるような余計なことは言わないという、いかにも官僚らしい保身的態度をとる他の部署とはちがって、こちらの立場になって教えてくれる。一緒になって得体の知れない外国と戦っている同志という親近感を勝手に感じてしまう。
が、それも一方的な思いこみかもしれない。異国の地で異邦人に囲まれた中、同胞に会うと依存心がわく、日本人的ムレ根性と同じなのかもしれない。日本企業が、国内で競合している間はいがみ合ってつぶし合ってるのに、外国を相手にするとつるんでしまう図式そっくりの、嗚呼日本人ってやつか。
そんな親近感は気のせいで、国内審査官が容赦ない取り調べ官で敵だみたいなのこそ極端な思いこみで、実は国際課と同様に親切なのだろうか。でも、こないだ会った弁理士が語っていた「国際出願室に行けば懇切丁寧に教えてくれます、われわれもそうしてます」というひとことにも、国際出願はちがう、というニュアンスがあった。それに、親身な対応はこないだと今回と少なくとも2人なので、たまたまそういう職員に当たっただけ、というのでもない。
国際出願では、国際事務局本部に送金するCHF建ての出願料とは別に、日本国特許庁に9,000円納付する必要がある。国内出願では1区分だけで12,000円、区分が多ければどんどん増えていくのに、国際出願の場合どれだけ区分や出願国が増えても一律この額。しかも、国内なら半年とか審査期間がかかるのに、国際は1カ月で特許庁から国際事務局に送致することになっているらしく、その短期間で英語でのチェックをしてくれるのだから、どうみても国内よりサービス水準が上。国際出願では出願料を他の加盟国の相場に揃えてあるだけで、国内出願費用が高すぎるだけということもあろうが、やはり国内出願と国際出願の格差は歴然と存在しているように思われる。
得られた理解に基づき、指定商品と役務を増やすが、もう国際分類基準表をちゃんと調べてる時間がないので、英語も順番もいい加減。そうこうするうち催促していたネイティヴチェックの返事が届くが、こちらの意図が通じなかったらしく、なにやらわけのわからないことになっている。別の日本人にも聞いたが通じてない様子。もういいや。適当にでっち上げてプリントアウトし出発。
なんて日誌を車内でちまちまpomeraで打ち込んでたら、乗換駅を過ぎてしまった。しゃーない別の路線で行くか。時間はかかりそうだが、当初予定の霞ヶ関駅より虎ノ門駅の方が特許庁には近かったような気がするので、17時にはどうにか間に合うだろう。
とか考えていたらまちがって今度は手前の駅で降りてしまう。ここでも乗り換えはできるが、駅数が多くて時間がかかる。まあいいか。ところが乗り換えてから気づいた。銀座線では遠回りだった。しまった。数十円をけちったばっかりに17時に間に合わず44CHF余計に払うのか。別の路線で、とも考えたが、乗り換えに要する時間を考えたらこのまま乗り続けた方がいい。あとは駅に着くのをただ待つしかない。そういえば出願料の9,000円が必要なのだった。これがないと書類を受け付けてもらえない。特許印紙は特許庁内の売店で買うとして、銀行に寄ってる暇はない。現金あったっけ? 日頃手持ちは数千円。おそるおそる財布を見たらちょうど9,000円あった! 助かった。
そういえば虎ノ門駅から特許庁はほんとに近かったろうか。いつも新橋から歩くのでわからない。溜池山王の方が近かったかも。気をもみながらもとにかく虎ノ門駅で降りて構内の案内板を探すと特許庁と書いてある。一目散に飛び込む。閉庁まで10分足らずだがとにかく間に合った。入庁チェックもそこそこに窓口へ。
係員は電話で対応してくれた女性で、こないだ隣で助言してくれた人だった。川口からよく間に合いましたねと言われる。無事受理。窓口出たら3分くらい余っていた。
郵便局で国際送金手続きを、と思ったが17時で終了。
新橋まで歩いて現金を引き出し、めったに行かない寿司屋に入ってビールまで飲んでしまう。
新橋近辺の現代美術系の貸画廊はほぼ消えた。京橋まで写真系と商業画廊を含めざっと見る。ガワと中身に入れ替わりはあっても、全体としてはおよそかわりばえせず。出版や印刷、批評、さらにはアカデミックな哲学と同じにおいがする。かつてかかわってきた、長期低落のさなかにある業界と。