大崎。1996年に出張校正で行って以来。95年が最後だったかもしれない。その印刷所を探したが見つからない。駅前の昔ながらの商店街ももはやない。再開発中。何とかシティが二つもあるのになおもこしらえるつもりらしい。北品川を経て三共製薬方面。品川駅と大崎駅の間の工場密集地は写真をはじめた頃から気になっていたのだが、今日に至るまで降り立ったことはなかった。行ってみたところで知れている、と見なしていたのだろう。実際、敷地内には入れないし線路沿いも歩けず、かつての関心にかなうものは見いだせなかったように思える。山手線と埼京線湘南新宿ライン横須賀線に囲まれた区画へ。この一帯は東海道新幹線京浜東北線、さらに南には京浜急行も走る鉄道密集エリアでもある。山手線がここでこんなに湾曲しているとは、地図では見知っていても実感としてはつかめていなかった。山手線を渡る跨線橋からゲートシティ。SV23、6X7、160NC、f22、出た目は1/60、1/15、1/8、1/4で。はじめの二回は蛇腹のケラレを防ごうと蛇腹を持ち上げる。絶え間なく電車が通り、橋が揺れる。新幹線とは交差していないのだが、通ると振動する。なかなか減衰しない。手の振動もあろうしかなりブレているかもしれない。初めての横位置。上辺はかなりギリギリ、ピントの山もわからない。やや見あげる程度がいいらしい。
かつて都市論とかいうデヴェロッパーの提灯持ちのような議論がしきりに交わされて、その数年後には大規模開発地区ができたと聞きつけるととにかく駆けつけありがたがって撮影するという連中が大勢湧いてでたものだ。あのころこっちはそんな趨勢になど目もくれずひたすら下を見て探し回っていたのだが、そうこうするうちに開発にも風当たりが強くなってきて、かののんきで無反省な人たちもほぼ根絶されたようだが、ああはならないよう気をつけなければならない。
品川へ。吉村朗展。すべてEPSONのインクジェットアウトプット。インクヘッドの移動方向に無数の筋がある。
デジタル画像出力の品質はこの5年で足踏みしたままである。EPSONのインクジェット出力は、最大濃度と演色域の点で銀塩カラー紙よりすぐれている。従来型引き伸ばしであれば拡大するほど鮮鋭度が下がるが、デジタル機ではどれほど拡大率が上がっても出力デバイスによるシャープネスの劣化は発生しない。したがって大型プリントほど引き伸ばしよりも有利になる。大型プリントを引いて見るならインクジェット特有のドットも目につかない。ところがEPSONのインクジェットプリンタは、いたずらに高dpi化したためにインクノズルの目づまりが頻発するという欠陥を抱えこんだ。これが走査方向での顕著な濃度ムラの原因となる。
小サイズであればこまめにヘッドのクリーニングを行えば実用上は抑えこめるが、大きい場合は目づまりしないで出しきれるまで何度もやりなおすしかない。サイズが大きくなるほど途中での目づまりの確率が高くなってしまい、大プリントに向くというデジタル出力の利点が損なわれる。印字途中のクリーニングが可能になったのであれば解消される可能性もあるが、途中で自動的にインク補充とクリーニングが行われるとそのあと色が変わるということもあるのでこれは無意味かもしれない。ギャラリーのような顔をしたEPSONのショウルームに展示されているインクジェットプリントにも、最近は少なくなったとはいえこの筋が見てとれるので、メーカーとしても回避不能であると認めているということだろう。
CANONやHPなどほかの大型インクジェットプロッタは知らないが、市場占有率からして問題にならないだろう。
一方、レーザ露光型の銀塩デジタルプリンタも頼りない。もっとも一般的なDURSTのLAMBDA130はシャープネスが低い。さらに、レーザの走査方向に微細な未露光部分があり、ネガペーパーの場合白い筋となって現れる。ビーム経を太くするかピントをぼかせば埋められるらしいが、ただでさえ甘い画像がさらにぼけてしまう。200dpiでは明らかに確認でき、400dpiでもぱっと見にはわからなくても目を凝らせば発見できる。これも興ざめだ。大サイズならごまかせるが全紙以下では厳しい。
CYMBOLIC SCIENCEのLIGHT JET5100はLAMBDAに較べればかなりシャープであり、走査線間の隙間もない。しかしメーカープリセットのカラーテーブルがまったくなっておらず、そのままでは発色がきわめて悪い。Rが朱に近く、M100Y100、いわゆる印刷での金赤に近い色になる。BもM成分が多く、C100M100のような色を出す。印刷に近似した出力結果を求める用途には向いていても、通常のRGBデータの出力としては忠実とはいいがたく、およそ使いものにならない。カラーテーブルを組みなおせばかなりの好結果が期待できるかもしれないが、稼働数も少ないのにそこまでやっているところがあるとは考えにくい。この手の出力機はラボ屋が購入するのがほとんどだろうが、彼らのこの分野での知識水準は概して低く、そこまで使いこなしているところはありそうもない。
銀塩プリンタにはKADAKのSATURNもあるが、国内でこれを導入しているところを知らない。
そういえばフィルムレコーダなるものはこのごろすっかり聞かなくなった。あんなものは移行期の折衷的役どころであって、迷惑なことこのうえない。印刷用途では邪魔なだけ、展示プリント用途でも中途半端で、今用途があるとすればフィルムの現物の必要があるアーカイヴ程度だろう。淘汰されて当然。
そういうわけで現状ではLAMBDAが現実的な選択となる。普及しているし、価格もLIGHT JETよりはこなれている。展示用途にはインクジェットは使えない。モノクロでのRCと同じで、クオリティとは別の問題、格とか見栄とかそういう次元の話になる。画像耐久性が云々以前に、インクジェットでは売り物にもならないし、数段安く見られてしまう。
問題はまだある。いまだにチャンネル8bitで制御していること。1677万色とか偉そうに謳っているが、1チャンネルだけならたった256階調しかない。LIGHT JETは12bitといっているけれども、これは内部のカラーマネジメントエンジンでの処理だけであって、出力段では8bitだったはず。Photoshopで16bitが標準になったって、出力環境はまったくあいかわらず。こないだの6X12をデジタルで焼いた場合、そのまま出せば空には確実にトーンジャンプが発生する。これではどうにもならない。8bitはまったく不完全な規格であるにもかかわらず、誰も文句を言わなくなり標準としてまかり通っているのはどうしたことか。やむをえずノイズをかけてごまかすわけだが、画像を劣化させなければ使えないような規格などわれわれが使うに足るものではない。
まだこの程度。いい加減何とかならんのか。新型が発売されたにしても、業務機の世界ではリプレイスされるまでに数年はかかるのだろうか。