先週、メインモニタNANAOE66Tの電源が突然入らなくなる。パイロットランプも点灯せず、リレー回路なのかカチカチいっているだけ。PBG4につなぐようになってからほどなくしてのことでもあり、推奨解像度以上で使っていたので、リフレッシュレートが高すぎて電源に負荷がかかったためかもしれない。8年前の購入ではあるのだが、ここに越してきてからはトーンカーブなど色を決める場面でしか使っていなかったので、実際の使用時間はさほど長くないように思う。とはいえ、こまめにつけたり2系統入力の切り替えを頻繁に行ったために制御回路の寿命を縮めたのかもしれない。こうなってからようやく、実使用時間を表示させる裏コマンドがあると知るが、もはや手遅れ。開腹してはみたものの素人にどうにかできるものでもなく、積もったホコリを飛ばして終わり。2万ちょっとで修理できるのではないかとのことで、ブラウン管はまだ使用に耐えそうだし、この切羽詰まったおりに表示環境を変えるのは不安なので修理も考えるが、故障箇所を修理しても他の部材が壊れない保証はないし、管もだいぶ経年劣化が進んでいるはずなので、この際買い換えることにする。30数万で購入した製品。このジャンルとしては長持ちしたほう。
そこでひさびさに調べてみたら、もうすっかり様変わり。トリニトロン管が生産されていないのは知っていたが、ダイヤモンドトロンの製造も終わっており、アパチャーグリルの新品は流通在庫のみ。しばらく前には、液晶パネルは演色性で劣るため色再現を重視する用途には向かないとされていたのだが、だいぶ性能も上がっていて、グラフィック用途にも液晶モニタが浸透しているらしい。というよりCRTの選択肢がほとんどないので移行せざるをえないだろう。それでも数少ないCRT製品とで迷う。
液晶モニタがNTSC比72%でCRTの色再現性能と同等だとかAdobeRGBをほぼカバーするとか謳っているのだが、どうやらこれは高輝度域だけの話らしい。昇天したトリニトロン管のE66Tではディスプレイ前面の操作ボタンでゲインとカットオフとをRGB独立して調整できる。つまりハードウェア側での補正によって、ハイライト側とシャドウ側の色転びをニュートラルに持っていき、なおかつハイライトポイントとシャドウポイントの輝度値を適正に設定することができる。ところが、同じNANAOの液晶製品ではゲインとガンマの調整しかできない。三菱やSHARPではRBG独立してのハイライトの調整さえもできず、シャドウからハイライトまでのカーブを平行移動させるのみ。液晶パネルでは、バックライトからの発光を液晶の偏光特性を変えて遮光することにより任意の色を表示させるという構造からして、シャドウ域の明るさもカラーバランスも変えられないらしい。これは70万する上位機種でも同じ。低輝度域の色再現範囲は狭いとNANAOのサポートも認める。これは表立って語られることがほとんどない情報。新しいメディウムの普及期にはいつも既存のメディウムに対する短所が隠蔽されてきたわけだ。
まず液晶機の購入候補を絞り込み。NANAOの21.3インチ機種L997はネット通販で17万前半。今年春の発売。パネルが日立のIPSで新しいらしい。14bit内部補正はいいのだが、ハードウェア上で充分な補正が行えるとは思えず、いずれi1などのキャリブレータを使う必要が生じる。その場合ソフトウェアキャリブレーションになるので8bitでの補正となり、表示上の階調飛びが不可避である。SHARPの23万で自社製IPSパネル採用のLL-T2020も同様。三菱RDT-211Hはネット通販で20万、自社製のIPSパネルで色は鮮やかに見えるし、専用カラーマネジメントソフトとi1製品の連携により10bitでのハードウェアキャリブレーションが可能となる。これは階調飛びの可能性が下がり、画質上は有利である。しかしながら専用ソフトが7万もするし、NANAOのようにメーカー5年保証ではないので、5年保証をつけると本体5%の1万程度は上乗せする必要があり、本体の価格差もあって10万程度割高になってしまう。一昨年の製品にそこまで出すのも気が引ける。ソフトなしで操作できる本体の色調整のパラメータはほとんど用意されていない。これのOEMらしいLaCie321もハードウェアキャリブレーションが可能だが、専用キャリブレータがやはり8万程度する。NANAOの操作に慣れていることもあるし、液晶ならL997で決まりだろう。そこでヨドバシ新宿店でいじり倒すことにする。
まずPC本体にグラフィック系のソフトが入っていなかったので、PhotoshopElements2.0をインストールさせる。新規書類を全面R0G0B0で塗りつぶし、その一角をさらにR10G0B0で塗りつぶし。外光の多い劣悪な環境ではあるが、赤を見わけることができる。R0G10B0も明確に分離している。R0G0B10はやや見えづらいが、目をこらせば描きわけられているのが見てとれる。なかなか優秀。R10G10B10もしっかり見える。ニュートラルも出ている。これならシャドウの色味を調整する必要はなさそうだ。R5G0B0はほとんど見えない。R0G5B0はかすかに見える。R0G0B5はまったく見えない。R7G0B0は見えるような気もする。R0G7B0は見える。R0G0B7は見えない。チャンネルごとにシャドウポイントの見えは異なるが、緑近辺の波長に対してもっとも感度が高いという視覚本来の特性からして、低輝度の青が黒に近く見えるということもありそうなので、これをもってこの液晶パネルの限界と考えることはできないだろう。ハイライト側もよくできている。ブライトネス100%ではR250G255B255、R255G250B255、R255G255B250、R250G250B250ともようやく見わけられる程度のちょうどいい按配。R253G255B255、R255G253B255、R255G255B253もかろうじて見わけられる。階調再現は申し分ない。
しかし、CRTの暗い赤のほうがもっと深々とした赤だったような気もする。階調のつながりとしてはきわめてなめらかに破綻なく作られているが、うまく辻褄が合わされているという気もしないではない。低輝度域の色再現範囲はCRTのほうがかなり広いのではという疑念は残るが、LabモードもCMYKモードもないPhotoshopElementsでできるのはここまで。店頭ではCRTとの比較もできず、帰ってきても確認できず。オフセット印刷の色再現域はモニタより狭いとの通念があるが、高濃度域ではそうともいいきれない。いわゆるリッチブラックといわれるC20K100より濃いC100K100は深く沈んだ発色をする。液晶ではこの再現は厳しいように思える。実用上は充分ではあるが、色再現に関する限り、ブラウン管を超えてはいない、ような印象を持った。
それでもなお、このL997に傾きつつある。なぜか。CRTの現行機種では三菱RDF223Hくらいしかない。7万と安い。発色もしっかりしているようだ。ブラウン管にしては画面周辺部までピントがいい。AdobeRGBのガマットをカバーするRDF225WGもあるが、蛍光体が古いタイプで、発色はいいが焼けつきやすいらしく、大枚をはたくには気が引ける。大型のCRTを置くための机上のスペースはあり、液晶にしてしまうとむしろこの机が無駄になるくらいなので、省スペースはとりたてて必要ない。CRTの夏場の発熱は過酷ではあるが、優先事項ではない。消費電力の差も大きく電気代を変えるというほどではない。10万高い液晶にする理由といえば、賃労働でレイアウトソフトを使用する場合の文字表示が多少鮮鋭になるであろうこと、E66Tでシビアな用途には支障になった画面内の色むらが軽減されるであろうことだが、これらもNANAOのサポートによると液晶とCRTとで大きな差はないという。あえて液晶にする理由がほとんど見あたらない。液晶に対していまなおCRTが圧倒的な優位にあるのは応答速度であり、原理的に反応が遅い液晶はブラウン管に追いつくことはないという。しかし静止画用途なのでなんの関係もない。三菱の本体側の色調整機能が貧弱な点と、入力がD-Sub一系統しかない点、管表面の光沢が強く写りこみが懸念される点くらいか。