4x5スキャン。展示プリント用でもないのにいちいちニュートンリング対策のオイル貼りなどやる気がせず、だいぶ前に買ったきりだったベビーパウダーを使ってみることにする。最近はデンプンをボトルに詰め噴霧できるようにしたアンチニュートンリング用の製品が出ているらしい。粉目が出るので高倍率スキャンには使えないし、たかがデンプンに2,800円も払う気がしない。だいたいそんなもの10年前に出しとくべき商品であって、今ごろ得意げに売っててどうするよという気分。ある印刷所でもドラムスキャナは全廃してフラットベッドで代替しているそうだし、そもそも透過なり反射原稿の比率がかなり下がってきているという話。カバーシートも流動パラフィンも売れ行きはガタ落ちらしい。フィルムや印画紙が消えるとか騒いでいるわけだが、フィルムスキャン周辺用品のほうがはるかに末期的である。スキャニングというのはフィルムからデータへの移行期上の過渡的な形態ではあったわけで、中途半端でもあり、いずれ消えゆくものではあるのだけれども、画質上も利便性としてもいまだ優位は揺るがないと思うのだが。ともあれ自前で噴霧器をこしらえるべく百均で霧吹きを買ってきてパウダーを封入し、ガラス面に吹いてみるが何も出てきた形跡がない。霧吹きの口が小さいのでうっすら予想はしていたのだが、中でつまっているらしい。やむなく口で吹いて飛ばすことにする。スキャン結果を見るとニュートンリングは出ていないのだが、パウダーが目立ちすぎ。あまりにおびただしく白抜けがあってレタッチのしようもない。粉を多くまきすぎたせいもあるだろうが、ベビーパウダーより片栗粉のほうが微粒子なのだろうか。7点ほどスキャンしたものの全滅。しかもガラスにパウダーを乗せてもフィルムに移ってしまい、結局クリーニングしなければならない。これならオイル貼りの方がまし。
スキャンしながら、フィルムがカーリングして浮いていて、アンチニュートンパウダーの必要性が薄いとは思っていた。気候のせいか、あるいはフジのフィルムは以前4x5で使っていたコニカよりカーリングしやすいのか、ガラス上でエッジ以外のフィルム面は浮く。ただこれもスキャン中に温度変化があると逆側に反ってしまう。結果としてニュートンリングは出たり出なかったり。それでも粉だらけよりはましなのでこれでちまちまやりなおすことにする。今もこうしている横でスキャン中。それにしてもこの8年落ちのUMAX製スキャナはもう限界。ノイズは入るし不安定だし反射原稿はボロボロだしで、もうどうにもならない。とっととEPSONでも買いたいところ。でも、買い換えたところで仕事で使う機会は減っているし、仕事外の写真でもロール紙プリントの時くらいしか使わないのだが、それも当分やらないだろうから、DM作成やwebにアップするためにサンプルプリントからスキャンするとか、展示会場をMamiya7で撮影したフィルムをスキャンするくらいしか使い途がないのだけれども。
反転してレタッチしてみると、なんとも古めかしくて安っぽそうな、再現性の劣った画像となる。昔の写真のように見えるのは、輪郭の分離の悪さと周辺減光、画面内のムラのためもあるだろうが、なんといっても色調の冴えなさが大きいと思う。色調などどうにでもなりそうなものだが、なかなかそうはいかないのだ。6x12のスキャンでも感じたことだが、一般の風景撮影などの場合、選択範囲を設定しての部分的なレタッチを許容するならともかく、画像全面を同じトーンカーブで処理しようとすると、全体を納得いく色調に整えるのはなかなか難しい。ある部分を意図通りに仕上げようとするとどこかが崩れてしてしまうので、妥協して全体に破綻が出ないようにする。だが、今回はそれともちょっと違うようだ。画面内のカラーバランスにはっきりした差がある。開口部近くはYーG寄りで、周辺部はM-B寄り。露光量が大きく違うので相反則不軌で色味が違ってしまったということもあるかもしれないが、濃度の差により必要な補正量が違ってしまい、低濃度部か高濃度部のいずれかがカブるということだと思われる。その理由はどうあれ、画面内に看過できないほどの露光量の差があるのは確かであり、このために出るべきディテールが引き伸ばしプリントでは焼けなくなる。覆い露光は途中で失敗が多いのと露光中に余計な操作を加えるのはいさぎよくない気がしてやめてしまったのだが、やはりやっておいたほうがいいだろう。
これはおもしろい。充分なすに値する。6x12の頃は、その当時の写真を超えることはもうできないのではないかと思っていた。今となってみれば、まったく案ずるには及ばなかったわけだ。あの折り目正しさとは別の方向ではあるが、今やっているほうが可能性を感じる。エボニー4x5の時期にもここどまりかと感じていたし、6x7でもそうだった。みんなあっさりと裏切られてきたわけだ。11年前に展示した初期の35mmにしても、これが自分の最高傑作になるのではなどと考えていたが、6x7で軽く超えてしまった。向上し続けねばならぬ、つねに新しくなければならぬ、と気負いすぎるのもどうかと思うが、ここで枯渇するのではないか、ここで終わるのではないか、と怯えてばかりなのも健康的とは言い難い。それら二つは背中合わせなのだろう。進歩への強迫的執着と将来不安。それに突き動かされても喜ばしい末路が待っているとは思えない。売り上げを伸ばし業績を上げねばならぬ。しかしもう製品は成熟していてこれ以上改良の余地がない。経済成長しなければならぬ。しかし食糧資源もエネルギー資源も環境資源もいずれ使い果たす。そんな無理しないでのんきにやりましょう。とか言ってたら外付けHDにトラブル。おそらく物理的故障であり再起不能。マウントできず妙な警告音を発する。250GBが一瞬にしてふっとんだ。スキャン結果もすべて。この2、3日でネガフィルムと画像データの両方を失うというなかなか稀有な経験をしたというわけか。やれやれ。