hateno2007-04-14

入手したKodakの4x5現像タンクが2個しかない。モノクロフィルムの現像プロセスには現像・停止・定着・水洗の少なくとも4槽が必要。像を出すだけなら現像と定着のみでもよく、適当なバケツででも水洗すればいいわけだが、停止を省いたのでは現像ムラのリスクが増えるし、現像液の持ち込みが多くて定着液の疲労が早くなる。まともにやろうと思ったら、前水洗・現像・停止・第一定着・第二定着・予備水洗・水洗促進浴・本水洗・Agガード浴の9槽があったほうがよい。予備水洗以降は明室処理なので、順次液を交換していけばひとつのタンクですませられなくもない。
ともかくひとつ買ってみようと百均で物色し、CanDoでパンケースなるものを購入。横幅がやや長いが、深さはちょうどいい。蓋つきなので保管時にホコリが入らない。ポリプロピレン製。モノクロ写真薬品程度のpHなら問題なかろう。ダイソーにも同種品があったが、横幅がさらに長くてハンガーが安定しないのと、左右に取っ手がついていてハンガーを持つときに邪魔なのでこちらにする。テストとして1個のみ購入。
Kodak製はラバーで保温効果が高いので現像槽には当然使う。サイズがハンガーにぴったりなので全暗黒中でもハンガーの出し入れでの失敗が少ないように思われる。全暗とはいいながらも実際には完全に遮光しきれていないので、黒くて遮光性も多少はあるこちらを時間のかかる現像で使ったほうが気休め程度にはなる。あとをどうするかだが、停止浴も時間管理が重要になるステップであり、入れるときのトラブルを避けたいので、停止槽にKodak製を使うべきだろうか。パンケースを定着にすると液量が多くなるがこのくらいはいいだろう。
ハンガーもタンクもとうに製造中止の製品。現在ではめったに入手できない。これはアンセル・アダムスThe Negativeにも掲載されているし、設備に限っていえばすべて最高なのであろう操上和美の暗室でもこれの8x10サイズとおぼしきものが使われていたようだ。ISEプロダクツやらISEオフィスサプライあたりが同種のものを出しているようで、おそらくKodakのコピーなのだろうが、品質は定かではない。
これまで全暗中でフィルムのバット現像をしたことはない。フィルム現像は自作現像器でのTMXの現像と、あとはせいぜいオルソリスフィルムやグラビアフィルムの、セーフライト下で竹ピンセットを使ったバット現像だけである。自作現像器ではフィルムが浮いてきてしまい、手でおさえながらやっていたので結局バット現像とあまり変わらなかった。攪拌時にバットの壁から戻ってくる液流の影響でフィルム周辺部の濃度が上がってしまうため、バットでムラのない現像をするためにはかなり大きなバットの中心にフィルムを置く必要があるように思われる。処理の安定性やフィルムへのキズを考えると、このハンガーとタンクでの現像が個人用途では最上の結果が得られるような気がする。ステンレスの丸タンクにシートフィルムを軸から放射状に装填するナイコール社の製品が明室処理できていいという話を聞いたこともあるが、これもめったに出ない稀少品。
目をつぶって文字通りのブラインドテスト。幅が広いパンケース流用のタンクでは特に、目視しないとなかなかうまくハンガーが収まってくれない。ひたすら慣れるしかない。蓄光塗料でマーキングするという手もあるが、フィルムの至近での使用は避けたい。
ハンガーをよく見ると、KODAK FILM AND PLATE DEVELOPING HANGER NO.4A 4X5の銘がある。ガラス乾板時代から使われていたということか。フィルム装填部分に厚みがあるのはフィルムを遊ばせて現像ムラを防ぐのではなく、ガラスを収めるためだったのだ。天体撮影用途では平面性と寸度安定性においてフィルムよりはるかに優れるガラスプレートが10数年前まで使われていたようだが、4x5などという小サイズをそのような高度な研究用途に使っていたとは考えにくい。これは一般用のガラスプレートがまだ市場にあった時代の製品だろう。この個体が製造されたのはそのあとかもしれないが、前世紀初頭から存在していた製品だということだ。何か粛然とさせられる。