カラー印画紙

富士フイルムに問い合わせ。
こないだのプリントで、7秒くらいでプリントしたところ、露光が短くて明るすぎて相反則不軌によるカラーシフトが出ているように思えたので、富士CGの相反則不軌について質す。撮影用フィルムと違って印画紙についてはそういったデータは公式には用意されていないらしい。内部資料としては0.1秒から50秒までデータが出ているとのことで、その範囲は保証されている模様。そのグラフから推測すると50秒から相反則不軌が出てくるのではないかとのこと。ただ、濃度が上がる傾向というのだが、低照度時に感度が上がるというのか。疑問。一方の高照度側の0.1秒にはいささか驚いた。7秒なんて相反則の範囲内に充分収まっている。0.1秒とはどれほど明るいんだ。レンズが焼け付かないんだろうか。それとも光源によるレンズの焼け付きにも相反則が成立していて、0.1秒だろうと20秒だろうと同一露光量であればダメージは同じなのだろうか。関係ないけど昔の三鷹シアターとか並木座とか文芸坐といった名画座や二番館といわれる映画館で上映される映画は、カラーバランスが崩れており赤っぽく見えた。それはフィルムの変褪色の影響もあろうが、映写機のレンズ中心部のコーティングが焼けているためでもあった。ともあれ、カラー印画紙の短時間露光適性は、高速処理が要求される自動プリンターで使う場合の処理条件なのである。
一般のデジタルカメラで撮影された画像は、webにアップされたりデータで保存されたりするのだろうが、人に渡す場合には、自前のプリンタでなく街中のミニラボを使う場合が多いらしい。そりゃそうだろう。そのほうがランニングコストのかさむ家庭用インクジェットプリンタで出すより安くて速い。枚数がかさむ場合にはインクジェットでちまちまプリントアウトなんてやっていられない。現に街中のミニラボは、一時期より数は減ったけれど生き残ったところはいつも店頭に人がいて端末を操作している。そして、それで供給されるのは、レーザ露光後にケミカル処理された銀塩印画紙なのである。インクジェットなどよりはるかに高速で安定して処理でき、生産性が高いからだ。実のところ、カラー印画紙の売り上げはさほど落ち込んでいない。だからこそ元コニカミノルタの小田原工場も大日本印刷が引き受けて今なお印画紙生産を稼働しているのである。三菱製紙Kodakがカラー印画紙の価格改定を発表しているが、その理由は「主原材料である銀やパルプ・樹脂などの高騰及び原油をはじめとするエネルギー資源の高騰」(三菱製紙)であって、出荷の落ち込みのためとは言われていない。印刷用紙も軒並み相場が上がっているし、このところの物価高と同じ流れと見るべきだろう。カラー印画紙の値上げは、フィルムカメラやモノクロ薬品の整理とはまったく意味合いが違うのである。
もっと考えると、インクジェットとカラーレーザと銀塩写真オフセット印刷のうちどれが生き残るかという問いに辿り着く。商業ベースになりうる紙媒体へのカラー画像出力方式は今のところこの4つに絞られるだろう。熱転写方式はとうに脱落した。インクジェットは少なくとも現状では個人用途か1点ものサイン・ディスプレイのような少量生産向け。コストと量産性能からいって当面はそのままだろう。カラーレーザは発色が悪くてビジネス文書以上の品質を求められる用途には問題外。富士ゼロックスのDocuTechなどのオンデマンド印刷機は、以前にくらべればだいぶましにはなってきたものの、所詮は簡易印刷の域を出ず、オフセット印刷の品質に並ぶのは当分先だと考えられる。それにオンデマンド印刷というジャンル自体が、オフィス用プリンタやコピー機オフセット印刷機との間で中途半端な位置づけから抜け出せていないように思える。そして、プリンタにせよオンデマンド印刷機にせよ、カラーレーザ機は保守管理費がとんでもなく高くてコストがかさみすぎる。ここで儲けようというビジネスモデルが改まらない限り商業印刷の主流とはなりえないだろう。そういうわけで銀塩写真オフセット印刷という成熟した出力方式になるのだが、ではそのどちらが存続するだろうか。これは微妙だと思う。製紙過程は大きくは変わらないから共通だとして、それ以降の過程を考える。まず材料加工工程。銀塩写真オフセット印刷も設備産業である。銀塩写真は感光材料の製造過程で巨大な生産設備を必要とする。オフセット印刷も感光刷版なりサーマルプレート、あるいは印刷インクや湿し水などのマテリアルは巨大生産施設で集約して生産する必要があるが、最も大量に消費する最終提示媒体である紙そのものは印画紙にくらべれば汎用であり、少数の大企業に依存するものではない。次に個別の処理工程。銀塩ミニラボクラスならフロンティア1台あれば一通りこなせる。ところがオフセット印刷の4色機は判型が小さくてももっと大きいし、刷版を焼くためのシステムや裁断機、さらには製本機やら紙さばき機やら乾燥機なんかも別に必要になり、ラボよりもずっと大がかりになってしまう。銀塩は最初に巨大設備が必要だが、それ以降はさほど大規模でなくてもいい。一方オフセット印刷は最終処理段である程度の規模の設備投資と維持管理が要求される。オフセットはそうした高額の印刷機器などを償却するために回転させる必要があり、また性格上大量生産でなければ採算が合わない。ところが大量生産用途は今後確実にwebに持っていかれるだろう。その結果少量多品種生産が今後求められるようになったとき、銀塩写真のようには対応しきれなくなるのではないか。ただし廃液処理などを考えると銀塩印画紙の環境負荷オフセット印刷より高いだろう。総体で見ると、銀塩写真オフセット印刷の将来性は同等に思える。紙への画像アウトプットという需要はそうそうなくならないはずで、ならば銀塩もすぐにはなくならない。
本題に戻る。50秒までは相反則不軌が出ないが、それを超えるとデータ上も相反則不軌が出るらしいというのは、経験からも納得できる。2006年の個展のプリントでは90秒露光したとなっていて、これがベースの露光秒数なのか、ベースと焼き込みの合計秒時なのかすぐにはわからないが、とにかく照度が低いためのカラーシフトと考えてよかろう。その特性曲線を見たいものだがwebでは公開されていない。Kodakはすべての製品のデータシートを公開している。市場を独占しようとあらゆる手段を使ってきたり、企業体質としては問題も多いと思うが、このへんはさすがである。すべてひっくるめて、あの国らしい企業なのだろう。
富士のサポートに聞いた話の続き。CGはコマーシャル用グロッシーとのことで硬調だが、ポートレイト用の軟調紙もある。ただこれはラボ向けのロールペーパーだけで、最大でも10インチ幅とのこと。展示用途には使えない。このへんもKodakが強いが、需要があるからなのだろう。だいたい自家プリントをしていて富士のペーパーを使ってる人なんて滅多に聞かない。レンタル暗室でもKodakばっかり。最近はヨドでも少し置くようになってきたが、やはりKodakのほうがずっと品揃えがいいし、昔からラボ向け以外にも門戸を開放してきた印象がある。それはKodakが市場を占有してきたというものではなかろう。単純に、昔からセルフカラープリントを視野に入れていたというだけ。
それからいつも気になる保存性についても尋ねる。水洗とスタビライザによる化学水洗では画像の耐久性が高いのはどちらか。富士のサポートのおっさんが言うには、そりゃもう圧倒的に水洗のほうがいいですよ、とのこと。このへんは諸説あって、ある大学に勤務するその筋の専門家に聞いたところではスタビライザ処理のほうが上だという。ただこれは三菱だかのメーカーの受け売りという気がしなくもない。プロラボは現在ではほとんどスタビ処理らしい。オリエンタルは保存条件や処理法によるし一概には言えないと逃げを打つ。確実に言えるのは、交換をせずに色がついているようなスタビ液で処理したものはすぐに変色するだろうとのこと。某レンタル暗室がまさにそれだった。あそこで焼いたのは長くはないだろう。ただ、富士の人の口調の力強さからして、やっぱりじゃぶじゃぶ水で洗うのが間違いがなさそうな気はする。
さらにしつこく。KodakのRA-4純正薬品で富士のペーパーを処理した場合の不具合については、まったく問題ない、ただし、その分長く水洗したほうがいい、とのこと。5分は水洗が必要という。長くて10分。CP-31/32でも、CP-51でも、水洗乾燥ユニットをつけた場合に水洗は2槽、RA-4の標準処理で流せばそのまま各45秒の計90秒である。これでは少ないんじゃないかとつねづね思っていたが、やはり足りないようだ。自動水洗に頼らずバットで充分に水洗したほうがいい。なんならKostinerのアーカイヴァルプリントウォッシャー使ったっていい。むろん水道水などよりイオン置換フィルタを介したノーリツの業務機が最高なんだろうけど、もうプリント外注にもレンタル暗室にも戻る気はない。
ここのSeptember 06, 2006によるとKodakの印画紙は裏打ちしないとよれやすいとのこと。富士のほうがその点では優秀。そういったところの品質は日本製はよく配慮されている。