朝から快晴。10時頃西と北に積雲が出てきてこりゃ駄目かと思ったが、昼前には消えた。富士が見える。時間はないけど行かずにはいられない。
南から西に遠く積雲。13時半頃某地。クレーンはちょうど影が中央にかかっていい頃合なのだが、これが主目的ではない。先へ。日曜より人出が少なくて安心だと思っていたら、向こう岸の工場で作業着の数人が動いている。しまった平日なら当然稼働しているか。見抜けなかった。こちらのほうが通報リスクはずっと大きい。土日のほうがむしろよかったかもしれない。しかしここまで来たらやるしかない。
運河にかかる廃線の鉄橋。赤く錆びたアーチ橋。鉄道が工場への貨物線で単線なので橋の規模は小さい。金網で閉鎖されているが金網に穴が開けられており、そこから三脚を突っこみ、本人のほうはカメラバッグを背負ったまま上を越えて侵入。ここまではどってことない。よくある。橋の両脇には柵も何もなく、転んだら下に真っ逆さま。でも橋は1.5メートルくらいの幅があるのでそうは落ちまい。しばらくは橋の上に砂利が敷かれた線路が続くのだが、アーチがせり出す部分から床の充填がなくなり、鉄骨に枕木だけが渡され、その上をレールが走るつくりとなる。これは予想していなかった。枕木の下は運河が10メートル下に覗く。川、いや海なのかもしれない。これは怖い。枕木の間隔が不揃いでなお怖い。しかも風が強い。バッグは橋の途中に置き、露出を測ると15.7EV/ISO160、露出計もそこに置き、写真器を上着のポケットに入るだけ詰め込み、片手に写真器をつけた三脚を持ち、計7器をたずさえ、意を決して進む。途中からレール間の中央の枕木の上に木の板が渡してあるのだが、これが釘どめが外れて浮いてたりでかえって危険。下では波がたゆたう。写真器を転がして落としたらもう最後。救いようがない。中は空気なのでしばらく浮いてるだろうが、拾うすべがなかろう。それより自分が落ちたらどうなる、枕木は腐敗もなく折れそうもないが、その外側に転んだらドボン。こんなに3枚も着ていたら服がまとわりついて泳げない。しかし服を脱いだら写真器を放棄することになる。でも服を着たままだともろともに沈んでしまう。そういえば長いこと泳いでいない。泳げるんだろうか。底に足が届く深さではない。足が下についたときには既に溺れている。今日は晴れてるとはいえ、昨日までは寒かったから、水はまだ冷たかろう。冷たすぎて心臓停止したらおしまいだ。いろいろ考えてしまう。どうにも小心者で困る。中央にたどりついたら影がうまく来ていない。影まで移動。ついてみて気づいた。工場側はいいのだが、やってきた側の岸ににょっきり立つえらそうな集合住宅があまりに邪魔。あれが建つ前だったらよかったのだろうが。でもここまで来て今さら引き返せない。落ちないように三脚をレールと枕木の上に立てる。こわごわ。水準器を忘れたのだが、水準器を乗せて上から眺めているような余裕などない。だいたいこの写真器にそれだけの精度もないし、入れかたで傾きも変わるので、見た目で充分。で14時頃露光開始。20s、180°向きを変えて20s、さらに40sで1セット、90°回して30sとか。下を見ると支えている鉄骨の一本がねじ切れている。腐食したか。朽ちゆく橋。60kgの人間の荷重に耐えられるのか。下をときおりタグボートが走る。河川を浚渫した砂を積んだ艀を曳航している。このエンジン音が橋に響くのだ。音圧で揺れているのかと思ったが、それだけじゃああはならない。橋全体が音響エネルギーに共振しているのだろう。だからボートが来ると露光できない。落ちるならあの上がいいな。写真器を落としたらまたつくればいいじゃないか。自分が落ちたって、下までたかが10メートル程度、たいした流れもないし、30メートルも泳げば岸までたどりつく。橋脚とかしがみつくものもあるし、なんとかなるだろう、と居直り順応。この時点で14時20分頃。戻るときにはだいぶ気楽。露光済の7器を置いて残りの2器を回収しもう一度橋へ。しかし橋の中央部にちょうどよく影がかかるには30分くらいかかると気づきまた戻ってしばし時間つぶし。クレーンには遅すぎ。目障りな高層住宅の影でフィルム交換。しかし3器分フィルムを出したのに、Pro160NCは1枚のみ、あとはPortra400NC。時間もないので1枚だけにし、計3器をポケットに詰め14時40分頃橋の中央へ。ちょうどいい頃合。180度ずつ回転させ3枚、40s。南から西に雲が拡がっているが、まあよかろう。向かいのまっとうな橋でひとが群れて何やら撮影。15時前終了。まだ晴れてはいるので東京タワーに行こうかと思ったが、雲も少しあるし、あれは目玉物件なのでダークバッグでなく暗室で装填したほこりの少ないネガで撮影したい、ので見送り、帰投。これまで写真やってきたなかでも最大の冒険だったかもしれない。メンタルでもっと危機的な局面は他にあったかもしれないが、フィジカルな冒険度合はたぶんいちばん。ずいぶんのどかな冒険ではある。