早朝は特快晴だったがじきに雲が広がる。
何度も行ったというひとが言うには、Las Vegasに最初に行くときには夜に着くようにしたほうがいい、昼間行ってもがっかりするだけ、という話だった。どれほど色あせて見えるのだろう、と思いきやおもしろいじゃないか。夜よりむしろおもしろい。何を期待するかにもよるのだろうが、光がゆきとどいてすみずみまでくっきり見える昼のほうが情報が豊かなのは間違いない。夜は平板で貧しい。少なくとも、実際に目で見てとれる眺望に関しては。電飾というのはメディウムとして幅が狭くて可能性が乏しいのだと思いいたった。輝度の問題ではない。光の表情が通り一遍で、変化に欠けるのだ。色もトーンものっぺりしていて、それら要素の扱いかたとしての点滅とか形状とか配置といったものもパターンが数種類程度しかない。だから量で圧倒するしかないが、それも期待はずれ。やはり充分な光のもとで見る多様な対象のほうがずっと変化に富んでいておもしろい。視覚は光によって与えられる。知覚としては光に還元できないにせよ、物理的には光によって与えられる情報そのものである。ところがここでは、光の表情が、そこいらのロボットのように貧しいのだ。
では豊かな光のもとで見えるものは何か。巨大ホテルの群なのだが、中世の城を模していたり、エジプトっぽかったり、昔のNew York風だったり、東洋風だったり、地中海リゾートだったり、海賊譚を借りていたり、日本の底の知れた遊興地と大差ない「テーマ」に沿ってつくられているようだ。日本とは規模が違って金もかけてあるのでそれなりの説得力はあるが、所詮張りぼてだしインチキ臭いのは確か。そうした現実が、まさしく「白日のもとにさらされる」から昼はつまらないということなのだろうか。ならば夜のあの程度の虚飾に酔えるということか。「着ぐるみに中のひとはいない」と思いこめるのだろうか。
ローマ帝国調やらエジプト風やらの様式をなぞっているだけで、オリジナリティなどない。みんな借り物。スフィンクス像やローマ彫刻のレプリカもまがいものに決まっている。でも誰もそれをとがめたりはしない。真正さもオリジナリティもまったく問われない。偽物で充分。ミュージアムとは違う。
ここに来る客も、ミュージアムに来るトライブとは明らかに違う。むろん中にはそういう人もいるだろうけど、大多数はローマ彫刻が本物だろうとどうだろうとまったく問題としないだろうひとびとである。
ともあれ、物理的サイズがでかいし、物見遊山として見るにはいっときの娯楽にはなる。ただ、同じひとが、Las Vegasは3日で充分、1週間もいるような場所ではない、と言っていたが、それはその通りだと思う。こんなものはすぐ飽きる。
上記はあくまで、この地の諸々を視覚的鑑賞対象としてのみとらえた、ただ見るだけでの話である。実際にゲームに参加すれば、傍観者として見るばかりではわからない、奥深い魅力に接することができるのかもしれない。身ぐるみはがされ素っ裸にされてしまうほどの。そうした世界やそれに興じるひとびとを否定するつもりはない。でも自分がそこにはいりこむ気もさらさらない。この地に観光で来ていながら賭事をいっさいやらない人間もあんまりいないだろうけれど。
スフィンクスもどきを撮影しようかとも思ったが、雲も多いし、この写真にとっては実物でなきゃ意味がない。
NEWYORK NEWYORKの摩天楼もどきをジェットコースターレーンが抜けるさまや城もどきにも惹かれたが近づきかたがわからず、容易に入れないということは三脚も立てさせてもらえないに決まっているので見送り。昼の部はこれくらいにして夜に出直し。
で夜。雲がちで夕暮れ残照は見込めず。モノレールに乗ってみようとMGMに入るが、とにかく広くてモノレールまで行き着けない。スパに迷い込んでタオルを巻いた人や水着の女性の中で三脚持ってうろうろ。カジノの中は暗すぎて撮影対象にはならない。どうにもなじめない空間と人種。まあ字義通りの人種の違いとは別だが。日本のパチンコ屋と同じじゃないか。スロットなんてパチスロとどう違うのかわからない。客質も、まあ日本のパチンコ屋のようにはしみったれてないけれど、通じるものがあると思う。正装して行くものだと思っていたが、Tシャツに短パンのラフな格好のひとが多い。ただ女性には、黒で短い、ドレスっぽいワンピースが多い。上層階では、このへんにやたら多い各種リムジンで乗りつけたタキシードとかのお歴々が、映画さながらのゲームに興じているのだろう。モノレールは有料なのでやめる。
18時過ぎ、西の空にわずかに明かりが残っている頃からNEWYORK NEWYORKの車寄せへ。どこも車寄せを豪華にして、車から降りたった時点で圧倒しようということらしく、けっこうきらびやか。ここは車道ばかりで三脚をおく余地がなし。バス停から構えるが木がじゃま、それよりひっきりなしにやってきては止まっていくタクシーのライトが悪影響を及ぼしそう。ネガ交換しつつ10枚ほど。増感現像ネガと標準現像ネガを分けるのにさほど意味がなく、抜き出したネガを試しに現像した結果から現像条件をわりだすのが正攻法だとようやく気づき、とにかく段階露光。1.5mから8m。バス待ちのひとが多くやりづらい。追い出されるのを覚悟で、正面にある公道か敷地内かわからない階段で三脚をほぼ最大高にし、タクシー越しに撮影。5枚。ホテルの客が出入りするが、タクシーに隠れて気づかないのか、暗いからわからないのか、とりたててお咎めなし。でもこっちを見てるような気も。面倒だから放置していただけか。
土曜の夜だからタクシーが多いのかもしれず、翌日にもう一度来てみることにしてStripを北上。南のほうが客層も店の格も上という印象。ブランドショップやらもある。北のほうは昔からの店が多いせいかもしれないが、大衆店ばかりで客も見るからに貧しそう。ただ、古い店のほうが、テーマパークのような安手の物語に寄りかからずに、正攻法のカジノの店構えでこれぞアメリカという雰囲気で好感が持てる。電飾も昔ながらのアメリカの看板。これだけがアメリカオリジナルの様式だろう。洗練されてはいないが野太くて好きだ。
BILL'Sは南のほうだが、そういった古いスタイルのアメリカのカジノ。ここで5枚。敷地から離れているだろうと思われる路上に三脚を立てたが、それでも難癖つけられたらその外の芝生でやろうと、今回は堂々と撮影。何もいわれず。撮影中、Gitzoのたぶん5型カーボン三脚を持った男が現れ、店の入り口のすぐ前に組み立て、大型のおそらく業務用のムービーカムを乗せて客を撮影しはじめた。止まってると写り込むなあ、やだなあ、と思っていたら、店員に何か言われ片づけていた。許可もとらずにあんな真ん前に構えていたのか。カジノは客のプライバシー保護のため写真撮影は御法度らしいし、だいたいあんな人通りの多い場所で店開きしたら迷惑に決まってる。どこの初心者だ。
写真撮影を目的にしているとおぼしき人間もときどき見かける。単独行動で、一眼レフを手に持って歩いているひと。昼には若い女性、BILL'Sの前から向こうを撮影していたのはカメラ好きっぽい線の細い若い男性。いずれも東アジア人。日本人かも。アジア系は少ない。
TREASURE ISLANDの帆船の前から煙が高く上がって焦げたにおいがしていて、また出し物かと思っていたら、しばらくすると消防車がけたたましい音を出して集結していた。とんだ宝島である。
SAHARAについたらどうにも貧弱。2枚だけやっておく。はす向かいの土産物屋、BONANZAは明かりがほとんど消えていた。1時。まあ土産物を買う時間じゃないか。
昨日買ったバスの1日券は16時過ぎに切れているので、Strip南端に出るのに使っただけ。ここまで歩いてきてその先に撮影場所はないのだが、たったこれだけのためにパスを買うのはもったいないので歩く。たいした距離じゃないが、Stripをはずれると人通りが少なくなって怖い。展望タワーのStratsphireは閑散。あんなとこ行かんだろ。無事帰り着いて2時過ぎ就寝。