早朝には晴れていたのだが、じきに全天鈍い白になる。高層雲か。これだから春は昔から嫌いだ。
フィルムホルダを横位置用に切削し、装填。そういえば4X5カットフィルムホルダに1年入れっぱなしだったのちに露光したフジNCのカブリよりも、露光後少なくとも2年は経過しているImpressaのほうがカブリが少ないように見え、しかも目立った感度低下もなくそこそこ出ていて、これはコニカの感材のほうがフジより優れているということなのかとも考えたのだが、おそらくそういうことではなく、Impressaは遮光袋に入れた上で遮光されたフィルムの元箱に入れてあったので漏光がほとんどなかったのに対して、NCを入れたまま放置してあったLisco MARK IIという通常の製品より高価な米国製のホルダが、おもにその引きぶたと思われるが、ごくわずかな光を透過させていて、微量とはいえ長期の間に蓄積し、はっきりわかるほどのカブリになったということだろう。黒のアクリルを薄くすると赤の光を透過させることは自作蛇腹で確認していたが、プラ素材はたとえ黒くても赤帯域から赤外線を透過させると思ったほうがいいようだ。むろんプラにもさまざまな素材があるわけだが、たいていの場合、透明の高分子素材に着色剤を混ぜこんでいるのだから、光を通すと考えたほうが自然である。プラスティックを信用するな。カメラ業界ではポリカーボネイト製のカメラボディの蔓延が不興を買い、金属製カメラが復興してきたわけだが、そんなことはどうでもよい。見た目とか手触りとかいったスイス製腕時計と同じ尺度をカメラにあてはめるなんぞは、合板で自作したガラクタ同然の暗箱と泥まみれになりながら格闘するこれぞ本物の土木写真からすれば薄ら上品なおままごとでしかない。とにかく重要なのはこれだ、プラは光漏れするぞ。遮光性はカメラにとって第一の条件ではないとはいえ、現実には遮光性が保証されていないと安心して作業できないし、この先機材に絶対の遮光性を要求するような、またぞろへんちくりんな写真をやらないとも限らない。しかしレンズキャップもプラでロールフィルムホルダのハウジングにもプラが多用されているという現状はどうしたものか。引きぶただって昔は金属だったのに。そっちのほうがボディなんかよりよほど写真に直接に影響するはずなのだが。ジナーの標準蛇腹だってプラというかビニールだ。これも革製にくらべて信頼性がどんなものだか。
まあそんなのはたいした問題ではないのだが、台場、というより青海に行こうと埼京線に乗ったものの10時には積雲も湧いてきて、下見に切りかえ横浜で降りて神奈川へ。米*軍施設があるせいもあろうが、それ以外の地区でも海岸線や運河沿いにはほとんど出られない。都内と同様。出田町埠頭も立ち入り禁止表示だらけで、侵入してもつまみだされそうだし、そこまでして入るほどにも見えない。恵比須町に入って、135でやっていた時にはなんとも思わなかったのだが、今回のカメラの目で見るとなかなか悪くない。夏至頃早朝か夕刻にまた。大黒町を入れるところは回る。油槽など。青いのが難。
そして大黒大橋を渡り大黒埠頭へ。風が強くなり、しかも大型車がびゅんびゅんと風を吹きあげていく中、海上の高架橋を渡るのは結構びくびく。なのに眼鏡が落ちないよう押さえながら、身を乗りだして真下の海面を覗きたくなるのはなぜなのだろう。虹橋でも海上20mくらいの高いところでは左右に保護網が張ってあって別になんともないのだが、もっと低くなると網がなくなり怖くなってくる。しかしこちらは虹橋より車道と接近しているのでヒヤリ度が倍増。湾橋からの高架の高速道がうねうねとからみあうさまはよくつくったものだわいと思わせる。しかも合目的的な設計からあの形状が導かれたというのが見事。湾橋の真下から覗く。いまだによく理解できていないのだが、どうやらある程度今回の当初の意図に近い結果が得られそうに思えてくる。いやまだ確実ではないのだが。湾橋の海上部はほぼ直線状。これはぜひとも。夕刻のほうが光が回ってよい。しかしもともと回折によるカブリが多いのだから高コントラストの条件がいいのか。しかし画面内光量差もある。あとで気づいたのだが、日没前になると空中警告灯が点滅する。いろいろやってみればいいじゃないか。
進んでいくと視界が開けてくる。横浜市内の京浜工業地帯の一般的な、つまり陸地寄りの地区では、地上に立って歩く時の視界に占める空の割合が狭い。都内の湾岸相当。しかし大黒埠頭では千葉市の海沿いからその先の房総なみに広くなる。あるのは倉庫また倉庫。埠頭の突端に進み横浜*港流通センター。こいつはでかい。地図で見るとワールド流*通センターより一回り大きいくらいだが、倍ほどにも見える。色はワールド流*通センターに劣るが形状はこっちのほうがいい。両端から覗く。これは午前中に東から行くべき。西もいい。回って戻ってくると、公道かどうかはわからないが、立ち入り禁止表示のない一般道が埠頭の端に接している。こんなのは見たことない。木更津あたりでは空き地に埠頭がつながっていたけれど、中央線や止まれの白線があるような車道ではなかった。そのまま大黒埠頭を一周するつもりだったのだが、日も沈み先も長いので半周で切りあげまた大黒大橋を渡り、それにくらべるとなんのおもしろみもない大黒橋を渡っててくてく歩いて鶴見から帰投。通常の4X5ビューカメラより軽いとはいえ、9時間背負って歩きづめだとさすがにこたえる。鶴見線沿いはずいぶん以前にさんざん通って、ほとんど入れないし撮影を咎められたりもして、もう充分かという気分になっていたが、あれからあちらも変わったろうしこちらも変わった。また行ってみるとするか。