8日目。雨。寒。
昨日歩きすぎて小さなマメができたのとカゼっぽいので市街地ですます。
相國寺は仏堂が屋根2層。大きく古いがさして特徴はなかったと思う。参道部分なら三脚使用可だが撮影するまでもない。山門は小さい。境内に神社が多い。たくさんの塔頭を従えるがみな住居化している。瑞春院はその中では重文を持っているらしいが小規模で庭園型。
妙顕寺は屋根1層で背が高いが木にさえぎられる。屋根の勾配が急でせりあがった形状だと、見栄えはするのだが、この箱の撮影対象としては画面のほとんどが瓦で占められてしまうので向かないようだ。妙蓮寺も正面両脇に松。宝鏡寺は庭園型。本法寺も2層の浄福寺も木がある。本隆寺、2層の智恵光院、清浄華院、廬山寺、いずれもぱっとせず。バス路線図に載っていないクラスの寺はたいてい見るに値しない。梨木神社も特になし。西陣には風情のある古い商家がたくさんあり、不審庵今日庵は格調を感じさせる。意外に無防備、と思ったらその向かいの裏千家がらみらしい辞書の入り口には警備員。
大徳寺はこのあたりではもっとも期待させる大本山だが、山門も法堂も古くて大きいもののおもしろみがない。山門は正面に立てないし法堂はかろうじて立てるものの木が張り出している。境内に塔頭がたくさんあってそれぞれが格式があるようで個別に商売している。本堂が国宝の塔頭もある。力のあったお寺らしく、参道は石が敷き詰められ、全体に整備が行き届いている。潤ってそうに見える。でも撮影したいとは思わない。
今宮神社?若宮神社?は本殿から屋根が3層に張り出していて、横から見ると格好がいい。建勲神社は丘の頂上にあり、広い面積を境内として柵で囲っていて、鎮守の森が保たれている。植生が荒らされてない様子。
他にもあったがだいたいこんなところか。今日も歩いてしまった。収穫はなし。市街地内の寺は大本山クラスでも魅力に欠ける。
パソコンの表示がおかしい。フォーカスが変で、特に赤がずれる。倍率色収差画面。ブラウン管ならよくありそうだが液晶でこんな現象が発生するとは。乱暴に持ち歩いたせいか、濡れたからか。さほどおかしくない部分もあり、ハードウェアの故障というよりシステムの異常のようにも思える。挙動も不審。でもWindowsのことはからきしわからない。
Tri-Xは大阪の写真専門学校に通う学生が使っているものだった。吉田寮の人々を撮影するために通っているのだという。コニカミノルタギャラリーでよくやっているようなやつか。カメラは学校から借りたらしいBronica6x6。Husky持参。大手広告代理店の内定もらってたのに蹴って東京のスタジオに就職するのだとか。今夜の宿泊者は中国からの留学生と、ドイツおよびオランダからのヒッチハイカー。東大駒場寮もそうだったが、やっぱりこういうところはおもしろい人間が集まる。妙なのもいるけど。
中学初年時分から北杜夫なんかを読んで旧制高校文化にあこがれていたこともあって、もともと旧制高校の寮由来のバンカラな気風は好きだったのだろうし、そういう寮に5年もいてなじんでいて、駒場寮にも入り浸っていたというのが、今でもさほど違和感なくこういうところで生活できることの説明にはなるかもしれない。でも、この歳になったら、たいていの人はそういうのから卒業するものだ。家庭もあるし、責任ある立場にもついている。学生のときにこんな生活を一緒に送っていた人物が、若くして有名メーカーの部長になっていて、まあ昔から迫力ある奴だったのだが、そいつとひさびさに会ってうちに泊まったとき、飲んでるときは昔とさほど変わらなかったが、翌朝水をすすめてもかたくなに断った。健康管理が要求される身分の人間であり、われわれとは別の世界に行っちゃったんだなと思ったものだ。だが、それが世間一般の相場。こちらのほうがはぐれもの。ノスタルジーでやっているのではなくて、かつてと変わらない、まるで進歩がないということ。でも、一時的な滞在だからおもしろがれるのであって、居をここに落ち着けられるかといったら無理。