あった。デジタル写真ではじめて可能になった技法。8x10カメラのバック部にA4フラットベッドスキャナの受光面をとりつけ、レンズからの結像をラインセンサでスキャンするというもの。スキャン中に画面内の人物などが動くと独特の効果が現れる。アナログスキャナでも可能だろうから厳密にはデジタル技術によるオリジナルとは言えないが、フィルム撮影であの画が出せないのは間違いない。PhaseOneあたりのラインセンサスキャニング方式のデジタルカメラバックでも同様のことができるかもしれない。
これが銀塩写真法では実現できない結果をもたらすのは、デジタルデバイス固有の画像生成の特性に根ざした創案だからだ。他にこういうのは思い当たらない。他の、あたりまえに撮影して後処理で新味を出そうとするような手法では、デジタルでのみ実現できるような見えは期待できない。これをどこで見たのか忘れたが、たぶんヨーロッパの人だった。途中までは思いつきそうなものだが、やっても意味がない、と切り捨ててしまう一線を乗り越えて素朴な発想を現実化してしまったのは賞賛できる。
でも。一発屋で終わるだろう。あれじゃヴァリエーションも期待できないし、たぶん次も続かずにマンネリになってやがて消える。
もっとも、一発屋銀塩でもいくらでもある。ほとんどみんな一発で消えていく。版画なんかだと同じのをよくも飽きもせず毎年毎年やってるもんだと思うようなのが多いが、様式の幅が広いから、対象が同じで様式が十年一日でも、「その人独自の作風を確立した」と見なされて、マンネリでも後ろ指さされずにかえってひとかどのものと認められる。「ずっと続けてるんだから本物」という評価基準なのだが、その根底にあるのは、退屈でも飽きずに長く反復し続けるのをよしとする、肉体鍛錬型の精神主義である。
ところが、写真は基本的に現実再現という様式一つだけなので、普通にやってては様式で「独自の作風」であると主張できないから、特定の対象に頼ることになって使い尽くす。そこで、このような特殊な技法で他にはない様式を編み出すわけだが、同じことばっかりやってるとたちまち行きづまる。それは様式が完成されやすいということもあるが、版画など伝統的なジャンルと違って、見る側も飽きやすく次々と新しいものを要求するようなジャンル特有の傾向があるからだろう。
かくいうワタクシはどうかって? 少なく見てもとっくに4発は打ってる。一発屋はとうの昔に通過済。世間からすれば無に等しくともとにかく公開している。未発表のも構想中のもまだまだある。世間的成功を得なければ一発とカウントされないというのなら、まあ美術や写真で何をもって成功とするのかよくわからないが、一発も当ててないのは間違いない。いずれにせよ一発屋ではない。