富士フイルムのQuickloadホルダIIは平面性に配慮されているらしいのでしばらく購入の機会をうかがっていたのだが、フジヤでもヤフオクでも12,000円とかつけていたので買う気がしなかった。ところがここにきて急に下がり、安いと3,000円台で落札されている。何かあったのだろうか。KodakのReadyloadフィルムは生産終了だがあまり関係しないだろう。フジヤも急に下げだしたので、どうやらヤフオクの落札価格をモニタしている様子。
適当な頃合で購入。平面性を比較してみる。天井の蛍光灯を反射させて同じ位置から露光。ホルダもなるべく同じ位置に置くようにしたが、厚みと形状が違うので、同じ具合に写り込ませるために位置を調整してある。

まずPolaroidの545ホルダ。まあひどいもの。大波小波。もともとは厚みのあるPolaroidシートフィルムを使うためのものなので、それより薄いQuickloadフィルムでは平面性が出しきれない、とも考えられるが、長辺部分は板バネで押さえているので厚さはさほど影響しないはずなのにその周辺も盛大に乱れている。
こんなものに大枚つぎこんだのか……

上がQuickloadホルダII。だいぶましなようだが、光のあてかたによってだいぶゆがみ具合が変わって見え、実際はこれほど大差はない。周辺は545ホルダより多少いいようだ。545は圧板が固定されているのに、Quickloadは35mmカメラのようにバネで浮いていて、それも頼りない感じで、これで大丈夫なんだろうかと不安になる。


 


545(上)とQuickloadを同等位置で比較してみたのが上の2組。

カットフィルムホルダもテスト。Toyoのカットフィルムホルダー45II。これはまずまず。蛍光灯が不鮮明なのはホルダのほうにピントが来ているから。AFカメラって不便。

でもカットフィルムホルダならみんないいかというとそういうわけでもなく、LiscoのRegalIIはこんな調子。これで見るとQuickloadよりひどいようだが、実物を見るとLiscoのほうがやや平面性が高いように思える。FidelityとLiscoが二大ブランドだろうが、ここ数年は中身は同じだったはず。Toyoのほうがフィルムゲートのクリアランスが狭くてきっちり入るので平面性は高いだろうとずっと考えていたが、思っていたとおりだった。でも隙間が狭いぶん装塡のしやすさはLiscoより劣る。ホルダを振ったときのフィルムの遊びも少ない。それから、「引札口側の光線止めには糸クズがない特殊素材を使用しています」とカタログで謳われているが、たしかに内部でのホコリの発生は少ないような気がする。ただ、引きぶたを出し入れするごとに削りカスは出るし、まったくなくすのは無理だろう。
Toyoの旧型や、ナンバリングとロック機構つきのLiscoMarkIIも手元にあるが省略。
癪なので545の惨状をもう少し。


フィルムの平面性を重視するなら、今ある選択肢の中ではToyoのII型が最良だと思われる。国産でつくりもいいし、FidelityやLiscoより高いだけのことはある。でも、高いだけに売れなかったのか、アメリカ製のほうがブランド価値が高いのか、中古屋にはめったに出ない。とくにII型は少ない。いいものをつくっていてこれでは、Toyoも苦しくなるわけだ。
そのToyoのホルダでもよく見ると反っている。これ以上を求めるなら、粘着シートでフィルムをくっつけるというSinar製品を使うしかないだろう。Linhofにも同種製品があったかもしれない。しかし高いし片面しか入れられないし、だいたいまだ製造しているかどうかもあやしい。RWバキュームホルダではフィルム周辺部までは吸着用の吸い出し口がないが、周辺部こそフィルムが浮いているので、あまり実効性はないような気がする。Quickloadホルダは圧板が浮いているが、あれを流用してどうやってバキューム機構を入れるのか謎。10万以上するのでとても手が出ない。いずれにせよ現実的ではない。
なお、フィルムの状態や温度湿度などの条件によって結果は変わってくると思われるので、上記はあくまで一例である。照明を写り込ませるために寝かせているが、一般的な用法と同じく立てて使えば当然影響があるだろうし、縦位置と横位置でも変化があるかもしれない。
岡崎氏という写真家がバキュームホルダを自作している。画像で見るとRWのバキュームホルダよりも周辺部まで吸着孔があるようで、より平面性が高いと思われる。RWの言い分ではフィルム周囲から空気が漏れるので周辺部まで孔を設けるのは難しいとのことだったが、ちゃんと克服されうるということだ。ただ、RW式はおそらく露光前に吸引してその後はポンプを動かさないが、岡崎式はどうやら露光中ずっとポンプを動作させて空気を吸い出しているという違いがあるようだ。岡崎氏も「市販のバキュームホルダーも参考の為に見てみたのですが多くの問題が残っている様な気がしました」と述べていて、RW以外に吸着式のシートフィルムホルダというのはあまり聞いたことがないので、おそらくRWホルダのことだろう。ただ、岡崎氏の自作ホルダはフィルム平面性向上のためというより、1時間といった長時間露光中にフィルムがホルダ内で動いたり変形したりする問題への対策としてつくられたものらしい。
正直ちょっとここまではできない。モノクロプリントでもフラッシングやハイライトマスクを常用するなどこの人の技術水準は非常に高い。プリントを見たことはないが、webで見てもただならぬトーンだとわかる。だが、単にトーンが整ったきれいなプリントというだけではなさそうだ。ゾーンシステム方面の写真家は、いまだにf64調のアメリカ西海岸様式を伝統工芸よろしく反復再生産しているような人ばかりだが、この人は稀有な例外と思える。
こちらはといえば、審美的な基準としての階調再現にはさして関心もないし、だいたいモノクロプリントのよしあしの見わけもろくにつかない。ではなぜこんなにフィルムの平面性を騒ぎ立てるのかといえば、写真は平面であり、厳密な平面性がなければならない、などというような教条的な主張を振りかざすわけではまったくなくて、平面性が悪いと誰にでもその影響が如実にわかるようなことをやっているので気にせざるをえない、というだけ。受光体の進歩を見てみると、銀板やガラスからフィルム、そして固体撮像素子に移行しており、フィルム、あるいは紙ネガを除いては、初期の加工精度さえ得られていれば、扱いかた次第で反ったり曲がったりゆがんだりといった心配はほぼ必要ない素材が用いられている。受光体の歴史において、平面性に気を遣わなければならないフィルムのほうが例外的なのかもしれない……が、フィルムを撮像素子にとってかわられるべき前段階であるかに見なすにはまだまだ早すぎる。