昼間また暑さがぶり返したので1時頃から作業。涼しかった先週にやっとけばよかったんだがネガが見つからなかった。使い回しのウナギのタレをバットに投入。引き伸ばし機のセッティングが、このあいだ大全紙相当まで拡大したときのままになっているので、そのままちくちくしたネガをかけてみる。ところが、どこをちくちくしたのかわからない。ピントルーペで見ると、針で突いた箇所とカラーダイでつぶしたところの区別がつかない。焼いてみてもよくわからない。ちくちくし足りなかったのだろうか。
時間もないのであきらめ、必要があって過去の展示の会場写真を焼く。2005年の個展と佐倉市美での企画展示、2006年の個展。佐倉市美から。富士のNL160。タングステン用フィルムからカラープリントするのはおそらくはじめて。NLは生産終了じゃなかったろうか。現時点でタングステン用のカラーネガを使う用途が思いつかないくらいだからそれは無理もない。NLだけは値上がりもせず、旧パッケージのままで店晒しになっており、期限切迫割引を喰らっていつしか消えていった。焼くとすばらしくいいトーン。というより日頃焼いているのがあまりにもレンズやフィルム本来の性能を殺しきった頓狂ネガばかりなので、写真というのはそういうものだと思いこんでいたらしい。ちゃんとしたネガから焼けばこれくらい品位の高い画が出るなんて忘れていた。考えてみたらまともに機材を使って普通に露光したあたりまえのカラーネガからプリントしたのは、5年ほど前に特急で他人の展示用プリントを焼くよう依頼があっての請負仕事1回きり。モノクロなら、対談写真の印刷原稿とか知り合いの結婚式の写真とか焼いたことはあるが、そんなことも楽しいと思えた20代の話。世間並みの写真なんて長いことやってなかった。個展はいずれも富士NPC160。これも廃番だが、PRO160NCに移行しただけ。だいたい商品撮影に向けた高コントラスト特性のNC160があるのに、なんでNPC160も出すのかよくわからなかった。ブローニーが使い切れずいまだに凍らせてある。冷蔵庫の中はネガフィルムとインスタントフィルムだらけ。食品なんて1/3くらい。印画紙も入れたいけど場所がない。
で、このネガはデイライトなのでカラーシフトが大きくて直しても直しても黄カブリしている。結局C0M80Y140でそこそこのニュートラルバランス。それにしても画質がいい。八切程度でもはっきりわかる高品位で緻密な画質。もう処分したMamiya7と43mmだが、10年も所有していたのにこんなにシャープだとは知らなかった。Mamiya7で撮影したネガも焼いた記憶がない。一時期は外出するたびぶら下げていたがほとんど使わず、撮影したモノクロネガも思うようにいかずプリントはしていないだろう。もっぱら展示風景の撮影にしか使っておらず、撮影したネガやらポジはスキャンしてインクジェットで出すなりwebに適当に乗っけるだけ。ほこりとりはしたから細部もディスプレイ上で拡大して見ているはずだが、この条件ではサイズに応じた比較ができず、判断基準がないのでこんなにいいレンズだとは思わなかった。シャープなだけでなく、ネガをプリントするとたいへん端正できっちりした写真になる。これは銀塩写真レンズのひとつの到達点だろう。今さら気づいていてももう遅い。あるうちにもっと使っとくんだった。使わないから処分したわけなんだが。自分が写真というメディウム本来の実力を知らなさすぎることに呆れかえる。
30℃で90s。完全暗室でのカラー印画紙の皿現像は大筋でクリアした。大全紙プリントは、サイズがでかいのと浮きぶたを乗せるのが関門だけれど、この調子なら行けるだろう。むしろ紙が小さいほうがやりづらい。大全紙用のバットは紙が底に沈んだ状態で上下左右にある程度の余裕があって紙を動かせるちょうどいいサイズ。ところが、六切バットでキャビネを4裁したくらいのテストピースを処理しようとすると、セーフライトのあるモノクロならなんら支障はないのだが、全暗のカラーでは、バットのどこに印画紙があるのかわからなくなり、トングで引っかき回して大幅に現像時間を超過したりする。だから小さいサイズの場合にはトングから逃げないよう確保するか手づかみしなければならない。これさえ除けば、カラーのバット現像は楽。むしろプロセッサより簡単とも言える。あとかたづけがたちまち終わるからだ。液をボトルか廃液タンクにあけて、バットとトングを洗う。終了。はじめる時も、前回の処理液の使い回しであればバットに注ぐだけで準備完了。一方プロセッサだと、液の使い回しはあとの洗浄が厄介になるのでできないから、そのつど新液を希釈しなければならない。一回テストランしてから薬品を入れ、処理後は排出してから3回は水を入れ替えて洗浄しなければならない。これが面倒。ただし、大量に焼くのであれば、処理中はプロセッサのほうが当然ながらはるかに高効率。露光済印画紙を挿入したら、次の露光までは明かりがつけられる。バットだと3分とか5分とかの処理時間中暗くしていなければならないから、液を攪拌してラジオを聞くくらいしかできない。でも漂白定着は途中で明かりつけちゃうけど。これはモノクロも一緒。ただ、ほんのちょっと焼くくらいなら液をとっといてバットで焼くほうがいい。すぐできる。
モノクロは自前の暗室で処理していて、カラーは外注とかレンタル暗室という人は、ぜひカラーもバット現像するといい。ハードルはカラーヘッドと遮光性だけ。カラー引き伸ばし機なんかネットオークションにごろごろ転がっている。レンタル暗室の料金考えれば、3、4日も使えば元がとれる。遮光性も、夜ならたいていなんとかなる。モノクロ同様、多少の光もれではかぶらない。実際には蓄光塗料を塗った暗室時計も使うし、蓄光テープでばみりしないと動きがとれないので、ほんとの完全暗室にはできない。廃液処理はラボ相手の業者がいくつかあり、最近は個人にも門戸を拡げている。たとえばここ。まだためっぱなしで使ったことはないけど。小口はみんなこの値段らしいので書いても問題ないと思うが、1リットル100円、それぞれ20リットルの発色現像液と漂白定着液を処理してなんとか代がついて4,300円。都内や近郊なら運送料も込み。地方都市でもミニラボはあるからやりようはあるのではないか。タンクの口を開けっ放しで蒸発させ放題の濃縮液でも問題なく受けつけてくれる。かえって銀の回収効率がよくて好都合なのかも。しかし現在の使いかたではいつ20リットルになるのかわからない。この夏で相当減った。多少時間が経ってても、発色現像液と漂白定着液を混ぜてなければOKとのこと。レンタル暗室の料金をまかなえる裕福な人なら借りればいいだろうが、レンタル料が負担だと思うならバット現像やらない理由はない。
7時まで焼いて終了。結局時間かかってしまった。でも薬品にはまだ処理能力がある。銀塩写真用品はタフだ。ほんと。
引き伸ばしプリントはやってて楽しい。インクジェット出力とは違う。なぜか。トラブルが少ないのだ。いや、むろん失敗はある。おびただしくある。だが、それはたいてい自分の不手際のせいだ。レンズの絞りを絞り忘れて焼いたり、イーゼルの別のスロットに印画紙を差し込んでいることに露光開始後に気づいたり、はては印画紙の袋を空けたまま点灯してかぶらせてしまったり、そんな失敗はいくらでもある。ところが、インクジェットプリンタの失敗では、自分の設定ミスもあるけれど、機械のトラブルが多いのだ。あれほど自動クリーニングしていながらインクノズルのつまりが解決しきれてなくて突然色ムラが出る。昔の機種だったらプリントの途中でインクが切れたらそのまま待機状態になって、インクカートリッジを交換すれば再開してプリント完了できたのに、今ある機種はインクがなくなると途中排出するしか選択肢がない。走行系のトラブル、パソコンのフリーズ。失敗の原因が自分にあるのならマヌケな俺のせいだとあきらめもつくが、機械が勝手に起こしたトラブルだと憤りのやり場がなく、機械を呪うしかなくなる。腹立たしいことこのうえない。銀塩写真のシステムは完成度が高くて、某レンタル暗室で搬送系の事故があった以外は、基本的にそういった機器トラブルはない。電球が切れる程度か。安定度が格段に高いのである。トラブルがあっても原因を解明できることが多く、自力で解決できる。だから安心して作業ができ、デジタル機器での作業よりもストレスが少ない。しかも、ランニングコストだってさして変わらない。原価計算したわけではないが、インクカートリッジの容量が少なくてインク代がよりかさむインクジェット普及機で「写真用紙」とか称するRCモドキの高めの紙を使う場合よりも安いという印象がある。インクジェットは絵柄が白ければインク消費量が少なくて濃いほど高くつくが、銀塩プロセスならどんな絵柄でもコストは一緒。表面の光沢も均一。手間はかかるがかけてなんぼ。