あえて[撮影記]カテゴリにはしない。お仕事の撮影はまあどうにか終了。Metzのグリップストロボは死んでいた。チャージの音はしてパイロットランプもつくのだが、強制発光スイッチを押してもシンクロさせても発光しない。ケーブルも被膜がはがれている。15年くらい前に買ったもの。寿命か。海にも何度も持っていったし。当時から変なことを企てていたのだった。クリップオンストロボも電池接点にサビ。サンドペーパーで磨くも不安定。ニカド電池はどれも満足にチャージできない。それにふだんから使っているFlashmeterVでフラッシュ光の測光ができない。そういえば10年くらい定常光でしか使っていなかった。昔買った撮影機材はみなガタが来ている。電池を使う製品は脆い。
撮影場所は某中央官庁の大臣室。こんな機会でもなければ縁遠い。かなり明るかったので手持ちですます。商業印刷媒体のためのインタヴューとか対談類の撮影は過去に30回くらいはやっているのではないかと思う。でも、たいていあとから反省点が出てくるもの。もともと見る側だったのが、撮影をするようになったきっかけも、勤め先で雑誌の対談の撮影をやらされたことだったし、いまはもうない神保町の小さなラボで現像してもらった対談のモノクロネガを、知り合いからもらったラッキーの6x6判集散光式引き伸ばし機でプリントしたのが、たぶん最初の引き伸ばしだったのではないかと思う。だから、今となってはこんなにも人物写真から離れてしまっていても、これが原点ではあるのだ。人によっては絶え間なく撮影しているとうるさいと言って怒られるのだが、今回はそういう様子もないので、あちこち動き回っては撮影しまくる。しかし40分と短かったこともあり、あとで見返すといろいろ不備や不足が目についた。だいたい撮影中は話の流れをつかんで表情の変化を追うのに手一杯で、機材の細かな制御など忘れてしまう。反省の種は尽きない。手ぶれ防止機能がオフになっていたことに終了後気づいた。カメラ一式は返却。
プリントしなければならないネガはあいかわらず出てこず、ありそうなところは探してしまい、無駄に広いこの部屋を片っ端から探さなきゃならないのかと途方に暮れる。茶封筒にでも入って紙の束にまぎれこんでいたらちょっとやそっとでは出てこない。遮光袋に入ってるのを捨てちゃったんじゃなかろうか。どこから手をつけたらいいかわからない。と絶望的な気分になりながら、昔のネガが入っている引き出しをめくっていたら、モノクロネガのシートの中からひょっこり出てきた。あった、と思わず叫んでしまった。でも出てきただけでありがたい。あるべきところにはなかったが、あったのはそれほど突拍子もない場所でもなかったので、ネガの整理がまったく行き届いていない、というほどでもないとしよう。
気に入らないネガをどんどん捨てていく人もいるらしいのだが、「仕事の写真」は別として、ネガを捨てるなんて考えたこともない。だから基本的に昔のネガからすべて残っているはず。無駄に部屋が広くて、収納スペースの捻出に今のところは迫られていないとためでもあるし、撮影枚数が少ないので、大量に撮影するスナップの人にくらべてかさばらないということもある。だが、それ以前に、自分がとにかくも何かを期待して残したものを否定する、のみならず消し去るには忍びないと思っているからかもしれない。30歳で会社を辞めて店開きしたのだが、その時、昔の自分とはおさらばさとばかり、実家に置いてあった、中学高校時分に大学ノート数冊にびっしり書いた日記をすべて捨ててもらったのだった。当時から買いためた蔵書のほとんども同時期に処分して、過去の一切を清算して生まれ変わるくらいのつもりだったのだろう。それでも結局はこんなありさまなんだが。でも、その後、たいせつなものを捨ててしまったという喪失感と後悔にとらわれることがしばしばあった。自分がその時その時に本気でやったことは、いらないように見えても、そうたやすく捨てないほうがいい、と思うに至ったことが、ネガを捨てられないことにも反映しているのかもしれない。火事になったら当然まず救い出すのはネガだし、この部屋の中で、ネガより捨てられないものなんて一部の写真機材以外にはない。ただ、遠からずこの部屋は退去するし、ふくれあがった所持品も減らさなければならない。そうなれば、昔の、まずプリントなどしないようなどうでもいいネガも、整頓ではなく処分の意味での整理の対象となるのだろうか。
で、プリント。発色現像液も漂白定着液も生きている。ネガにホコリがくっついていて、ブラシでこすってもとれない。裏も表も。ホコリまみれの中に置いておくとこうなるのだろうか。でもPrintFileには入っていたのだが。プリントするとちゃんと色が出る。富士CGとFujiUSAのグロッシーの印画紙を同じ露光条件で比較すると、USAのほうが感度が高く青寄り。露光条件を調整すると、USAはコントラストも彩度も高い。シャドウはすっと落ちる。色が派手に出るのでこのネガには好適だが、人像には向かない。ただ、彩度が高いのは、国産のほうは液の温度が低かったのが影響しているかもしれない。20x24でも5sという短露光秒時。これなら50インチロールでもこの伸ばし機で焼ける。色も出るし、もう完全にLambdaいらずだ。
しかししかし、ほんとに見つかったのか。これが探していたネガだったのか。確かにこれは渡すはずのプリントのネガに間違いないのだが、ずーっと追い求めていたのははたしてこれなのか。これでよかったのか。