吉田寮はみんな帰省していて人が少ないかと思ったらいつも通りバンドの練習をやっている。泊まる部屋でも数人で深夜までゲームしている。ここが寒くて掛布団がなく、しかも明け方にガスストーブをたいたらしく乾燥しきっていて起きたら喉がガラガラ。睡眠中に鼻呼吸ができず口を開けて息をしているのだが、そのせいで喉がやられやすく、外気から侵入する病原菌に対する抵抗力もあまり強くない。親も口を開けて寝ている。軽い蓄膿なのだろうが、こればっかりはちょっとやそっとでは直らない。
朝から雲がちらほら出てくる。私設図書館は正月休み。でも無線LANはつながるので借用。外でパソコンいじってバッテリーが切れ寮に戻って充電しふたたび銀閣寺道まで歩いて天気予報を調べ、なんてやっているうちすっかり冷え、正月も営業するという中華屋で定食を食べたらもう昼過ぎ。雲は分厚いし、また京阪に乗って石清水八幡にでも行っておくか。三が日は相当な混みようだろうから。ここは神社として伊勢神宮に次ぐ格式だというが、日本人は格付がよほど好きなんだろう。大相撲の番付とか各種ランキング、序列とそれにともなうしきたり。上とか下とか気にしすぎという人がいるが、まあ確かにちょっと気にする傾向は強いほうかもしれないけど、身分や置かれた立場の上下とか優劣を意識せざるをえないような社会のつくりになっているのは否定できないと思う。この国に暮らしていて、自分の年齢を忘れたなどというのはまったくの嘘であると断定していい。この国では、何かにつけ身分証明のために生年月日を示さなければならない仕組になっている。そして年齢の上下をたえずつきつけられる。年齢など気にしない、いくつだかなんてどうでもよい、などという心境では生活がなりたたない。ある人がそのように言い張るならば、むしろ年齢についてなんらかの引け目や圧迫にさらされていることの裏返しであろう。そのように、陰に陽に、序列におけるみずからのありかをたえず確認させるようにできている。
出町柳から乗車するが、どうもカゼっぽい。ホームや公園で長時間工作していたり、この冬のさなかに河原で寝ていたりして、しかも夜も寒ければカゼくらい引く。つらくなってきたので石清水八幡は見送り車内で寝つづけ、またも京橋下車。ネットカフェに入っていたら大阪は晴れてきた。せっかく来たことだし大阪城へ。金の装飾が派手。名古屋城と違って天守閣に入場しない限りは無料。でも結構な人手なのに閉まっている。やる気ないんだろうか。豊国神社のとなりにはでかい岩の枯山水。この城は石垣がたいへん秀麗。江戸城址についてはそう思ったことはない。堀に水がなく露出面積が広いからだろうか。西に抜ける。江戸城名古屋城もそうだが、かつての政治の中心だったので、近隣には府庁や各種合同庁舎など行政関連の建物が集まっていて、四角四面のよそよそしい街並。京都御所の南側にも京都地裁などがあった。天満橋まで歩く。西本願寺派の大阪別院は鉄コンでやや現代建築ふう。大阪天満宮は境内に出店が立ち並び、すっかり正月支度。庶民的で親しみやすさがある。むろん大阪の真ん中なので鉄コン。
天満橋から帰る。すっかりカゼっぽく、めったにないことだが頭が軽くズキズキする。そんなありさまでの異郷の暮れの寒さは骨身にしみる。寮は静か、と思いきやピアノが鳴り出し、ここの部屋はいつもより寮生が集結してきた。「帰らぬ人となった」のだそうだ。他にも学外の宿泊者がいるのが、しみったれてるのは自分だけでもない、と思えて救いか。