曇なのでこの日も下見。環状線を回っているとショーネベルクだったかそのあたりに檻状の巨大鉄骨建造物。隣の駅で降りて歩いたら高速道路らしきものに迷い込んでしまい、線路を渡ったら広い集合住宅の庭に入り込み、ドアが施錠されていて出られずはまりこむ。住民に見とがめられて出してもらい、また延々歩いてどうにか行き着く。化学工場の敷地内。外からでは木が植わっていたりでよろしくない。しかし敷地内に入ってまでやるほどの物件でもない。もうこういう構造物類はやめて、伝統建築だけでいくことにする。
そのあとも南の空港に行ってみたりするが、沿線はただの民家だけでぱっとしない。礼拝堂はあるがゴシック様式で向かないのが多い。時の為政者が権勢をふるって建てた建造物を中心部で探すべきと思いつつもシュパンダウへ。要塞があり、ルネサンス時代の城の原形が保たれているヨーロッパでも有数の史跡だという。赤レンガづくりの城壁と監視塔。ローマ彫刻の乱舞などはなく、装飾がなく素朴な建物。これが本来のドイツ様式の建築だろう。塔が悪くない。レンガの通路もいけるかも。版画のアトリエや現代美術系のギャラリーもある。京都の寺で展示するようなのとはちょっとわけが違う。塔を登ってみる。外壁のレンガだけで支えられたモノコック構造で、壁づらいに螺旋階段がそなわっている。20mくらいはあろうか。上ではえらい年配の結婚式だかなんかをやっていた。観光客も少なくてここはいいところ。
帰りにベルリン動物園駅周辺をうろうろ。駅から見えるカイザー・ヴィルヘルム教会は、原爆ドームのように空襲で破壊された痕をそのまま残している。驚くのは、屋根もないこの廃墟で礼拝が今なお行われていること。徹底している。もうこんな目にあうのはこりごりだとの思いが如実に伝わってくる。動物園の門は中国風だかインド風だかよくわからんが、金ぴかで色とりどりでゾウもいて悪くないかも。このあたりはミッテからは離れているが、東西ドイツ時代には西ベルリンのターミナル駅だったらしく繁華街で開発も進んでいる。
駅のすぐ北にヘルムート・ニュートン美術館がある。編集者時代に唯一本気でつくった本にも出てくるひとではあるのだが、正直ほとんど関心はない。でも22時までやっていて木曜の夜は無料というのでせっかくだし入ってみる。1階は印刷物の切り抜きとかバギー車があったりで本人の記念館。写真博物館を名乗るには私物化しすぎだ。こんなものは、行ったことないけど落合記念館と大差ない。遺品やら各種表彰状やら本人の業績の顕彰なんてどうでもいいが、使用機材がNikonEMとかPentaxの普及機など低額機が多いのが印象的だった。高級機は重いから、あえてこのクラスを使っていたのだろうか。PentaxLXはそんなに重くなさそうだけど。レンズは40mmとか準広角主体。あと、自分も使っていたのと同じ型のMetzのグリップストロボ。こんなしょぼい照明を使っていたのか。ビューカメラやハッセルかなんかもあったか。あとGitzoの3型あたり。パスポートがたくさん。2階は展示。雑誌に掲載された70年代とかのカラーのファッション写真はあまりにつまらなくて帰りたくなる。しかもインクジェット。キャプションもなし。ところがモノクロのほうはカメラを写り込ませたり鏡を何枚も使って自分が写った複雑なだまし絵構造をこしらえてみたりと、さまざまな工夫が凝らされていてなかなかどうしておもしろい。雑誌のカラーページは商品宣伝ページであって広告出稿主の言いなりだが、モノクロページでは好き放題遊ばせてもらえていたのだろう。ファッション写真というジャンルの枠の中で、ありとあらゆる実験を行っていると見てとれてたいへん楽しい。とはいえ、このジャンルの絶頂期にあって本人が稼ぎまくっていたので財団が残せて、奥さんも実力者なので没後にこのような施設がつくれたわけだろうけど、亡くなったからちょっと注目を集めただけであって、本人はずっと前から過去の人と目されていたと思う。ニュートンだけではない。雑誌出版業に乗っかるファッション写真というジャンルがとうに昔のものである。他の商業写真ジャンル同様、すべてやりつくされ、あとはクリシェ化した様式の使い回しでしかない。そうしたもののかつての栄華を伝えるここにはどこかしらさびしさが漂う。しかも、写真博物館とは名ばかりで、ヘルムート・ニュートンと妻の写真しかないただの個人記念館。30年後には確実に、跡形もなく消え失せていることだろう。10年後でもおぼつかない。
スイスでもそうだが、ドイツのスーパーは閉まるのが早い。土日は休みだったりする。そうしたなか、ベルリン動物園駅の高架下にあるスーパーは、たしかウルリッヒだったと思うが、22時くらいまでやっており土日も営業、広くていろんな食材があってたいへんよろしい。特にニシンみたいな白身魚を酢やらオイルやらザワークリームやらトマトソースやらに漬けこんだものがおもしろそうで大量に買い込む。生魚はほとんどないしあんまりこのへんで食べる気もしない。だいたいはホルマリン漬けみたいに瓶詰めでプカプカしている。でなければスモークサーモンかアンチョビ。貝のそんな瓶詰めも買った。ニシンみたいなのをゼラチンで固めた煮こごり状のも買ったがこれはあんまり感心しない。バーゼルでも豚のタンやら臓物をゼラチンで固めたのがあって、まるで人体模型のプラスティネーションのような猟奇的というか退廃的な見た目はいいのだが、たいしておいしくなかった。ゼラチンの味つけにもう一工夫ほしいところ。得体の知れない深海魚みたいなのもあったが荷物が多すぎて買えなかった。あと、ここはビールを冷やしてある。バーゼルではMigrosとかでビールを冷やして売っていたのだが、ベルリンではどこのスーパーも室温で売っている。ホステルには冷蔵庫なんてないので、冷えたビールが飲みたかったら店で飲むしかない。スーパーで買えば1ユーロしないのに。でもここではBecksとかが冷蔵庫に入っている。まあこちらのビールは日本の水みたいなビールと違って室温でも飲めるし、現地のひともそうなのかもしれないが、でもここの冷蔵庫のビールは回転が速いのかあまり冷えておらず、他の客も瓶を触っては冷えているかどうか確かめているので、やっぱり冷たいのが飲みたい様子。ただベルリンでは缶ビールがほとんどない。でも栓抜きとかないので、そのへんの角に引っかけて栓を抜くのだが、そうすると中身が吹き出してこぼれるし泡が立ちすぎる。それがいやなら瓶詰めでも開閉可能な蓋で締めてあるのを買うことになるが、だいたいヴァイツェン系で、ベルリンにはあんまりない。フリードリヒ通り駅構内のスーパーでもビールを冷やしてある。
ベルリンは物価が安くてありがたい。バーゼルの半分くらいか。でも思ったのは、東京も決して物価高くない。少なくともOKストアと百均で生活物資を調達する限りでは、ビールを除けば充分ベルリンの一般的なスーパーに対抗できる、いやしのぎさえする安さだと思う。デフレのたまものか。パリなんてとにかくなんでも高くてかなわんよ。ベルリンに行っても夕方安くなったハム入りパンなんてのを大量に買い込んでいる。あと期限切迫安売り品もここぞとばかりにねらいうち。これまでにつちかってきた生活能力は外国でも通用すると確認。旅行先でもまるで変わらない窮乏生活だが、別においしいものを食べたくて行っているわけじゃないし、美味を追求するんならたぶん東京のほうがいい。
そんなこんなでこの日も23時頃帰る。前日はホステルの6人部屋を一人で占有したのだが、遅くに男女連れが入ってくる。男女連れ?