とうとうデジタル一眼レフカメラを買ってしまった。
用途は20数年前に集めた400枚程度のLPジャケットの撮影。処分するにあたり画像を保存しておきたいのと、ネット上で売りさばくために詳細なデータを提示したほうがいいので、高解像度の撮影が必要。A3フラットベッドスキャナを中古で買ってスキャンし、終わったらネットオークションで処分することも考えたが、操作だけならカメラでの複写よりたぶん手軽ではあるものの、297mm幅でLPジャケットにはやや足りないのと、でかくて置き場所の確保が難題で、処分も面倒なのでカメラにした。スキャナと違ってほとんどの商品のネットオークション出品画像撮影にも使える。おもな用途はそれくらい。
どこの製品にするか。EFマウントのSigma12-24mmをCanonEOS-1nとともに所有しているし、まだ4本所有しているContaxRTSマウントのレンズが、EFマウントならマウントアダプターを介して使える。ContaxRTSマウントのレンズに対応するマウントアダプターはフォーサーズマイクロフォーサーズにもあるが、マイクロフォーサーズに移行していっていずれ消滅するに違いないフォーサーズを今さら選択する理由はないし、「デジタル一眼」などというわけのわからない呼称を冠されているマイクロフォーサーズなんぞ使う気が起きない。なおB&Hでは、撮影レンズからの結像をミラーで光学式ファインダーに導く型式のカメラを「SLR Digital Cameras」すなわちSingle Lens Reflex Digital Cameras=デジタル一眼レフカメラとし、それには該当しないレンジファインダーEVF(電子ビューファインダー)方式などのレンズ交換式デジタルカメラをInterchangeable Lens Digital Camerasとカテゴライズしている。順当である。またeBayでは、「SLR, Professional」にはレンジファインダーEVFは含まれないということのようだ。たまに誤出品もあるが。そういうわけでEOSになる。おトイレ会長率いるところの、偽装請負で有名なキノンに好感などあるわけないが、大手カメラメーカーなんてどこも大差ない。メーカーへの思い入れやら愛着やら忠誠心やらで商品を選択するとか、もうそういう時代じゃない。日本のYahoo!オークションでは、デジタルカメラはカメラカテゴリではなく「コンピュータ > 周辺機器 > デジタル映像機器 > デジタルカメラ」と分類されている。所詮はコンピュータ周辺機器なのである。性能が陳腐化したり規格が変更されたりしたらあっさり買い換えていく、CD-Rドライブとかカードリーダーなんかと同種のもの。製品にも製造元にも愛着なんてもてっこない。
こんなものに金をかける気はしないので、パソコン上からカメラの操作が可能なリモートライブビュー機能が使えるなかでもっとも安価でよく出回っているKiss X2をネットオークションで購入。キットのズームなど不要なので本体のみ。3万強。1210万画素、2008年発売。普及機の性能もほぼ飽和した時期の機種の中古が出回るようになってきたということだ。
これだけでは使えるレンズがSigma12-24mmしかないので、ContaxRTSマウントのレンズが使えるようマウントアダプターも必要。ContaxRTSマウントのレンズには、EOS-1D系やEOS-5D系といった35mmフルサイズ機種ではマウントアダプター経由で使えないものがいくつかあるが、APS-CサイズのCMOS搭載機種ではすべてのレンズが使える、と思っていた。ところが、安価な4,000円程度のマウントアダプターだと、45mmとか一部の広角レンズだけでなくマクロレンズも使えない可能性があるという。しまった。Makro-Planar60mm/2.8を使うためにカメラを買ったのに。
そもそも、このレンズが使いたくてContaxにしたのだった。引き伸ばし機やフィルム現像タンクを譲ってくれて、写真へ導いてくれた友人がContaxを使っていたということもあったけれど。1995年の最初の展示に出した写真はほとんどこれで撮影し、数点がSigmaのマクロ50mmによるものだった。Sigmaも悪くないのだが、Makro-Planar60mmはそれを明らかにしのぐ、とレンズの描写に関心のない人間にもわかるたいへん優れたレンズで、等倍ではやや落ちるものの、1:10あたりで最高の性能を発揮する。マクロというより複写用途に設計されたレンズなのである。LPジャケットの複写にはちょうどいい。もう長いこと使ってないのだが、これが手元にあるのだから、新しくマクロレンズを買わずにこれですませたい。マクロなのでオートフォーカスなんて必要ない。むしろ、そこらのAFレンズにはないねっとりとしたヘリコイドの感触でピント合わせがしやすい。Sigmaもそうだが、最近のAFマクロレンズはフローティング機構内蔵で、全域で光学性能が落ちないのはいいのだが、等倍での繰り出し量を減らすために、繰り出すほど焦点距離が短くなるようにできていて、遠近感がおかしくなる。このレンズは繰り出しても焦点距離は一定。三脚で固定してパソコンモニタ上でライブビューしながら撮影するから、絞りが連動しなくてもいいし、露出がずれてもまったく支障はない。
ContaxRTSマウントのレンズは、当初西ドイツのCarl Zeiss財団により製造されたが、その後日本での生産となり、富岡光学などで製造され、絞り優先のみのAEマウントから、シャッター速度優先モードなどが使えるMMマウントに変更された。一部を除きいずれもヤシカ/京セラ製のContaxカメラボディに使えるが、マウント周りの形状に差がある。Makro-Planar60mmでも製造時期によっていくつかの形状があり、マウントアダプターを介してEOSボディに装着するとボディ側に傷をつける可能性があるという。特に、安いアルミ合金製のマウントアダプターは、レンズの無限遠位置でオーバーインフになるようにできており薄いため、接触の危険が高いそうだ。ELEFOTO製の、より工作精度の高い真鍮製の1万程度の製品はもうちょっと厚く、ボディとの干渉リスクは下がるが、それでも干渉することがあるという。宮本製作所製の1万3千円程度、近代インターナショナルHanza扱いの2万程度のものはレンズの無限遠位置で無限が出る適切な厚みで、EF-Sマウントボディの場合干渉することはないとのこと。だが1万以上出すならSigmaのAFマクロレンズが中古で買える。35mm周辺判用レンズを新たに買う気はないが、マウントアダプターごときにそんなに払うのはもっと嫌。とはいえ安物買いで後悔もしたくないので、謳い文句では精度が高いらしいELEFOTOにしておく。
で、届いた。まずボディにSigma12-24mmをつけてみる。こんな入門機にもかかわらず視度補正機能がついていて驚く。裸眼では無理だがメガネ装着なら視度が合ってくっきり見える。ファインダーを覗くと意外に見えがいい。明るいだけでなくキレもある。明るいが素抜けでピントの山も掴めないファインダーだと思っていたのだが、ちょっと予想外。ピントを合わせてからズーミングするとピント位置がずれているのがはっきりわかる。ただピントがきていない部分もあまりボケずに見えてしまう傾向はありそう。それとスクリーン上のフォーカシングポイント表示は目障り。EOS-1nと比較すると、Sigma12-24mmで見る限りでは、X2がよりなめらかで明るく、しかもピントもくっきりわかる。EOS-1nがひどすぎたということもあろうけれど、発売時の価格の差からしてにわかに納得できない。そうそうコストダウンできる箇所ではないと思うのだが、量産効果だろうか。20年くらい前のCanonの普及機はマウントまでプラ製で、徹底してコストダウンしていたが、X2のマウントはアルミ合金と思われる金属製だし、仕上げも昔のてかてかのよりは高級感があって、結構まともにつくってあるという印象。
そしてMakro-Planar60mmにアダプターをはめてカメラに装着。おそるおそるやってみたが、傷はつかなかった。EOS-1nのほうはたぶん接触するだろうが、レンズのでっぱりを削ればたぶんOK。このレンズが主用途で、Sonar180mmなどのファインダーでのフォーカシングはあきらめていたのだが、全面マットスクリーン装着のRTSIIには及ばないとはいえ、結構いけそう。これなら一眼レフを称するに値する。EVFとの対抗上きっちりつくったのだろうか。
取扱説明書を見ずにだいたいの操作はできるようになった。リモートライブビューはまだ。まずまずの買い物だった。