暗室であれダークバッグであれ、フィルム装填・交換の際には目をつぶって行うことが多い。視覚情報を遮断したほうが指先に集中できる。とはいえ完全な暗闇なら何も見えないわけだから、触覚を幻惑する視覚情報はそもそも存在しないはずである。ところが、暗闇であっても目を開けていると気が散り、瞑目したほうが指先が鋭敏になるように思えるのだが、習慣とか暗示とかいったことなのだろうか。目を開けているだけで、ちょっとした蓄光テープの光はないかと探してしまうのだろうか。
だが、昨日暗室でフィルムを交換中、当初は全暗だったはずなのに、露光済ネガを何枚か箱に収めてふと目を開けたら、眼前がうっすらと明るい。何事かと思いとっさにネガの箱を閉めて部屋を見回したら、南の部屋との間仕切りの戸が開いていて、しかもスリープにしたパソコンが何かの拍子で目覚めていたのだった。曝光させたのが未露光ネガだったらまだしも、一昨日天王洲で最後に露光したネガだったのでがっかり。像は出るだろうが、カブリの影響はまぬがれまい。こういうこともあるので、目はつねに開けて周囲をたえず監視する必要があるのだろう。
触覚を研ぎすますことのできる、現在では稀有な機会が全暗作業ではあるのだが、目も見開かなければならないとは、なかなか難儀なことである。
などということを考えながら、昨日撮影したネガの交換。予報では明日は全日晴れ。梅雨入り前の特快晴なら出動しないわけにはいかないが、労働が……。