それはフィルム擁護派のぬか喜びでは

デジタルカメラではフィルムカメラのような色再現は出来ないという記事が「"Haniwaのページ"作者のblog」に掲載された。ネタ元はPanasonic 分光感度特性に優れた撮像素子の特許
これを読んで疑問を感じる人もいるのではあるまいか。
デジタルカメライメージセンサーに内蔵されているフィルターの物理的な制約で、青フィルターや緑フィルターが光の赤成分を除去しきれず一部を透過させてしまうなら、同じく物理的なフィルターによって各感色層ごとに光を選別しているフィルムでも同様の事態が発生するのではないか、と。
以下、多少専門的な記述が含まれるが、いちいちそれを解説していると長くなりすぎるので端折る。一般のかたにはわかりづらかろうがご容赦を。キモは、ここに示されているのはあくまでフィルターとセンサーの分光感度特性図だということである。
カラーフィルムにもフィルターの不完全性に起因する問題はある。カラーフィルムの場合には、増感色素によって緑や赤の光に対して感度を得ているので、レギュラー感色性の青感色層はそもそも緑や赤に対する感度がほとんどない。オルソクロマティック感色性の緑感色層は青に対する感度を持つから、これはフィルターで切る必要があり、フィルターの影響が出る。パンクロマティック感色性の赤感色層も青に感度を持つから、同じくフィルターで切るため影響が出る。しかしこの影響よりも、色素という物質に発色傾向を依存するカラーフィルムの原理に由来する問題のほうが大きいだろう。色素はRGBではなくCMYだが、シアンの色素にはマゼンタとイエローの成分が含まれていて除去しきれず、マゼンタの色素にもイエローの成分が残存している。これが色の濁りの原因となる。この解決策としてカラーマスキングというすばらしい技術革新があみだされた。これは、シアンの色素に含まれるマゼンタとイエローの色成分を除去するかわりに、マゼンタチャンネルとイエローチャンネルの分の濃度をシアン量に応じて差し引いてしまおうという発想である。これが、ネガフィルムなら簡単にできる。シアンをネガとして発色させた残りのポジ像をマゼンタイエローで発色させればいいからである。そうすればマゼンタとイエロー版にシアンのポジが加わる。ネガ像としてみればシアンのネガ成分が差し引かれる。シアンからマゼンタとイエローが除去されたのと同じ効果となる。その結果としてオレンジマスクが形成される。このカラーマスキング技術によってカラーネガフィルムの色再現は飛躍的に向上した。カラーマスキングが可能なのは、プリント時に調整できるネガポジプリントだからであり、ポジフィルムではこういったことはできないので、現像抑制物質を使って同様のマスク効果を得るらしい。
このように、カラーフィルムにおいては、色材の物理的制約はもともとあって、それを打ち消すような工夫を凝らすことで、分光感度の峻別を実現しているのである。だったら、同様に色材の物理的制約に起因しているデジタルカメラの分光感度曲線上の不具合も、似たようなマスク効果によって打ち消せるのではないかと考えたくなる。つまり、B成分とG成分に含まれるR成分を割り出して、その分をそれぞれから減算してやればいいわけだ。B信号とG信号にしても同様。それぞれのセンサーの特性に合わせて、各チャンネル値から不要成分を演算するようなアルゴリズムを用意すればいいだけの話。ドライバでソフトウェア的に実現できるのだから、物性に頼るフィルムよりもずっと自由度が高いだろう。ただし、ネガの色素や印刷インキの純度の低さを補うためのカラーマスキングでは、各色の濃度に応じて一律のマスク量で対処できるが、センサーの分光感度の分離の悪さを補正するのはもっと複雑になるだろう。700nmに感度のふたこぶ目の山を持つGセンサーの出力値のうち、どれだけの割合が除去すべき700nm近辺の成分かを判断するためには、Rセンサーの出力を参照する必要があるからだ。
上記リンク先で示されているのはフィルターやセンサー本体のみの分光感度曲線であって、システムとしてのデジタルカメラ全体の分光感度特性ではない、というのが落とし穴である。このグラフに示されるデバイスの特性が、カメラの吐くデータにそのまま反映されるわけではないのである。グラフにだまされてはいけない。それに、フィルムの縦軸は対数表記なのに、フィルターとセンサーのグラフの縦軸が「%」で、「フォビオンの分光感度曲線」グラフの縦軸に単位がないのもよくわからない。
デジタルカメラの内部のデータ処理についてはよく知らないが、センサーのこうした欠点は後処理である程度までは補正できると思う。世界に名だたる日本のカメラメーカーが、こんな大きな問題を手つかずで放置しているわけがない。
と思って、製品としてのデジタルカメラの分光感度特性図を探してみたが、あまり公開されていない様子。レンズや画像エンジンに影響されるから意味がないということだろうか。それとも、やはり公開できない理由があるのだろうか。
デジタルカメラの階調に、フィルムに及ばない部分があるのは確かだと思う。それは、高彩度の画づくりが主流になっているため、ぎとぎとな色彩設計に仕上げてあるからというのもあろうが、センサーのレンジの狭さと、分光感度曲線の暴れに起因する階調の不自然さが上記のソフトウェア的な補正では糊塗しきれていない部分も大きいのだろう。各色の分光感度曲線の谷間での重なり部分の処理も難しいのではないかと推測する。なので、元の記事は話がちょっと大げさすぎるとは思うけど、ぬか喜びとまではいえない、というのが結論。
 
エアコンが来週新調されることになった。ありがたい。でも6畳用。12畳用か、さらに奥の部屋まで届くよう20畳用を所望したのだが、差額を払えばそれでもいいといわれ、退去時には置いていくものに4万とか払う気はしないので6畳用で手を打つ。それでも現行機種なら電気代は安いだろう。あとはダクトで対処。