日の出前から曇。ここしばらくの傾向だと9時頃には晴れるのだが曇ったまま。意を決して靴を履いてみる。履けた! ケガからひと月以上にしてやっと。
6ドルでMetro 1day passをチャージして10時からLふたたび。昨日、持ってきた0.6φのをしこんだ。これと.58だけでいく。下のはEV5/ISO160という暗さ。点灯させ続けようとスイッチを押していたら、自動だといわれる。客が手すりにもたれてぶれたりしたかも。20m、最後はついに40m。半分くらいしか実質の露光時間がないんだからしょうがない。あまり暗いとフィルムの露光限界以下になるようで、いくら露出時間をのばしても反応しなくなる。径が大きいし、点灯中は多少は明るいので露光の延長は無駄ではないと思うが、ずっと外光が入り続ける部分の悪影響があるかもしれない。極力常に露光し時間を無駄にしないようフル回転しても4時間で11枚。できる限りのことはやった。
14時過ぎ、外に出るとまだ雲がち。残りの時間での撮影はあきらめる。トラベラーズ・チェックを換金し、Sunset/Normandieにバスで出てまたFreestyleに行ってしまう。Portra400NCはあと3箱と9枚、39枚残っているが、足りなくて臍を噛むのは避けたいので念のため補充しておく。3箱あったので全部買ってしまった。現金で。1箱26.99+tax。これはそんなに高くない。
懸案があったのだがこれも断念した。捨てる神あれば拾う神あれば捨てる神ありて拾う神もあり。1度捨てられたら2度目も捨てられる。この地は自分を受け入れてくれないのかと悲しくなったけれど、でも拾ってくれる神もいて、LAが嫌いにならずによかった。今年はあきらめる。来年があるさ。
Metro Gold LineでLittle Tokyo/Art District駅。Little Tokyoの東にArtist Districtがあるらしくて、時間があったのでちょっと行ってみようと思ったが遠そうなのでやめる。Metroで通ったときには特にわからなかった。それからGriffin Contemporary。LAMOCAの分館で倉庫を展示施設に転用した場所。屋根が木の板を並べてあるだけ。雨がほとんど降らないから可能なのだろう。木曜18時以降は入場無料。18時まで20分くらいあったがタダにしてくれた。LA圏在住の40代中心のグループ展。経歴を見た限りではほとんどがこのへんの大学のM.F.A.取得者。M.F.A.がないと相手にされないらしい。ここまで来て学歴の壁にぶつかるとは。しかしやってるのは図式的な「現代美術」を忠実になぞったようなもの。1つの立体がまあ見られただけで、あとは無残なもの。あれじゃ現代美術が世間から見放されるのも当然。日本でもあんなのをよく見たが、もうちょっと観客を喜ばせようという姿勢がうかがえることが多い。なんのためのM.F.A.なんだろう。能書き並べてごり押しする訓練のためとしか思えない。
それからMOCAの本館。所蔵品展。アメリカ人が多く、アメリカ中心の20世紀美術史観の反映だろう。ロスコで1室。写真はアーロン・シスキンドとヘレン・レヴィットとロバート・フランク。シスキンドは同じ55年の絵画と同じ部屋にあり、たいへんわかりやすい。フランクは1室で別格の扱い。LAが結構多い。これまで撮影場所を気にしたことはほとんどなかった。そういえばどこかの奨学金を得て全米を撮影旅行した成果が「The Americans」だったか。奨学金か。撮影年からすると31歳。旅行はするものだ。フランクは確か車で回ったのだと思うが。
写真はいずれもモノクロだが、絵画に比べて古びて見える。人物はその服装からそう見えるのだろうが、はがれた壁紙やペンキだけのシスキンドも、同時代の絵画より過去のものに見える。それに弱々しい。
いずれも寄贈者の名前が壁にでかでかと書いてある。ロサンゼルス・カウンティ美術館では建物が寄贈者の名前で呼ばれている。金持ちがアメリカ美術を支えていて、彼らパトロンのおかげで下々の者は芸術を享受できるのであるぞ、というあからさまな表明。この国の権威づけられた美術シーンはどこでもそれを感じさせる。
金と学歴か。
こちらも18時以降無料。そのためだろうが入りはいい。木曜の夜が無料になるのはたしかWells Fargoという銀行のはからい。
ビールを冷やし忘れたのを思い出し、今さら6本買って帰る。荷造り。
 
この都市圏には塔というものがほとんどない。教会の尖塔と大学の塔、あとは送電線の鉄塔くらいなもの。San Pedroと書いてある古い煙突があったがあれは珍しい。あとLA港の北西には化学プラントがあって剥き出しの金属色の煙突がたくさん立ち、水蒸気を吹き出していた。
東京のようにいたるところに各種の塔が立っているというのは珍しいのだろうか。ベルリンには多少あった気がする。給水塔の国だし。
ここの観光名所に塔は少ない。高いところに登って喜ぶという知的水準が高そうには思えない習慣はここにはないのだろうか。ラスヴェガスにはアトラクションつきの塔があるらしいが。自家用飛行機が多いから高い塔は避けられるのだろうか。それでもマイクロ波アンテナの電波塔くらいあってもよさそうなものだが。塔を目当てにSinar F2と612ロールフィルムホルダをわざわざ持ってきたのだが、見込み違いだったろうか。スーパーワイドの150mmレンズは現地調達するつもりだった。
というよりも、LAには、自由の女神像エッフェル塔スフィンクスや雷門といった、その都市を象徴するような場所というものがないのだ。せいぜい山に見えるHOLLYWOODサインだが、あれ自体はみすぼらしいし、あそこに行ってどうこうという場所でもなかろう。誰でもひと目でLAとわかるような場所がない。1カ月まわって気づいたのはそのことだった。
それでも、いくつかの気になる場所は撮影できたし、幸運にも恵まれた。失敗もあるかもしれないが、やるべきことは一通りやった。足の傷が長引き半月無駄になったり、やっと歩けると思ったら天候がさえなかったり、それ以外にもいろいろあったが、今思うと悪くない滞在だった。これでよし。次の場所に行こう。