朝から特快晴。昨夜やり残した写真器への装填を終えて、10時過ぎだったか出発。NYの彼女へ。
地下鉄1のSouth Ferryで降りて目の前のフェリー乗り場に行くが、Staten島行きの無料フェリーはあるがLiberty島行きはない。近所にもそれらしきものはない。もらった5年前の『地球の歩き方』をよくよく見たらBattery Parkで全然別の場所にあるらしいのだがわかりづらい。これで10数分ロス。歩いてその乗り場に行くが今度はチケット売場がわからずうろうろ。さらに10分ロス。12ドルのチケットを買うとき、三脚について何かいわれないか案じたが何もなし。見てなかっただけかも。これまでの経緯からして油断はできん。行列に並んだときには来たときより20mは列が伸びている。これもロス。進むうち注意書きが見えてくる。空港同様の荷物検査があるぞと。空港同様なら手検査もやってくれるはず。しかしフィルムの箱はいいが写真器10器はまず手検査では通らないだろう。しまった装填してくるんじゃなかった。フィルムの箱だったらすんなり通ったのに。『地球の歩き方』にはそんなこと一言も書いてなかった。あてにならん。ちゃんと調べるべきだった。どうする。装填したフィルムを元箱に戻すか。しかし行列の最中でそれは無理。ここまで並んだのにまた並びなおすのも時間の無駄。だめだといわれたら、その場で箱に戻せばいいじゃないか。それじゃ通らないだろうか。それに賭けてみる。それに大型の荷物は持ち込めないとある。だが三脚がだめとは書いてない。三脚を却下されたらつらい。雲台だけ持って渡るか。でも預かってくれるか。無理だろう。小型三脚を調達して出直すしかないのか。
で、ずいぶん待たされた末、NY市警がやっているらしい荷物検査。建物は時間の経過を感じさせ、2、3年前に始まったという雰囲気ではない。黒人の係員に手検査を頼むと別の黒人が出てくる。Ektar100の4x5の箱を見せるとスピードはいくつだという。12800とか答えようかと思ったのだが、箱に100と書いてある。見れば嘘だとばればれ。正直に100と答える。800以下だったかは問題ないみたいなことを言われる。しかし800で明らかな影響があるなら100だって露光されるはずだ。連中が問題ないと言ってるのはわれわれの要求水準よりはるかに低いレヴェルの話に決まっている。そんなに高画質の写真でもないし、全面に均一にかぶるだけならたいした影響はない。一部だけ光が当たったようにかぶるのも、事故として許容できなくもない。しかしX線スキャンの縞縞はうけいれがたい。特に夜間撮影分は素抜けの面積が広いためわずかなかぶりでもひとたまりもない。別の箱はもっと高感度で処理するとか言っておく。
そして写真器。感度は3200だと答える。でもX線スキャンは必要だという。まあそうだろうな。そこでこっちの箱にダークバッグを使ってフィルムを移すからOKか、と聞くがつまく伝わらないようなので、3本をダークバッグに入れてやってみる。そして空になった写真器を開けてみせるが、それじゃだめだという。フィルムの箱も開けて見せろと。でもそれやる前はフィルムの箱は目視検査でOKぽかったのに。同じことだろ。あらかじめ箱に入れておくかその場で移すかの違いであって。でも、黒い袋の中でもぞもぞやって見せたのがあやしく見えたらしい。しまった。うすうすそんな気はしてたんだが、あるいは話が通じる相手だと、甘く見ていた。ごねていたらもうヒスパニックが1人来るが何を言ってるのかほとんどわからず、さらに白人の、映画によく出てくる頭が悪いくせにえらがっているタイプの顔したのが出てくる。やっぱり上役は白人なわけね。そして、ぜんぶスキャンに通せと言う話になってしまう。未開封のフィルムもあるからそれだけでも目視で、というと、黒人の1人は同意したようなのだが、この異様に目がうつろな白アホ面は聞き入れない。しまった。Zurich空港ではごねたら通ったがここはアメリカ。1度Noが出たらひっくり返るわけがないのだ。しかも上の人間が出てくるほど話が不利になる。しまいにこいつが、この箱を開けるか外に出るか、YesかNoか、5秒以内に答えろ、などとまた映画そのままのせりふを吐きやがる。ここでいったん出て写真器を空にして戻っても、顔を覚えられているから、きっと手検査は無理だろう。チケットはすでにスキャンされているので、たぶん当日中に戻ってももう無効。そんなことよりせっかくの特快晴の1日がもったいなさすぎる。
やむなくスキャンに同意し、すんなり通る。最悪の結果。問題なのは、NYに来てから撮影したネガがほとんど入っていたこと。荷物減らしのため空き箱をみんな捨ててきたばっかりに、そうなってしまったのだった。みんなやられた。最初にすんなり応じていれば、たぶん写真器に詰まった未露光の10枚がやられただけですんだかもしれないのに。せめて未開封のPro160S2箱だけは生かす道もあったろうに。ま、箱を開けられるよりはまだましだし、どのみち感度が低いからとX線にかけられていた、とあきらめようとするが……何がLIBERTYだ、何がWELCOMEだ、との怨蹉の念がふつふつとたぎりまくる。
ところで、自由の女神という日本での呼称に相当する文言は見あたらなかった。the Statue of Libertyだけ。神だとかいうのはどっから出てきたのだろう。ギリシア彫刻風であることによる連想以上の根拠はあるのだろうか。なお『オックスフォード現代英英辞典』ではa female figureとなっていて、goddessやらといった説明はない。Statue of Liberty。あれこそがLibertyなのだ。Liberty嬢。けっ。なおフェリーの船名は「Miss Liberty」だった。Missなんてこっちにきてはじめて見た。
たぶんごたごたで1本は遅れて乗船。直線航路を通らずわざわざ離れたところから拝ませる。もうみんなばかばかしい。着いたのは13時過ぎ。まだ夏時間らしいので南中時だと思うが、すでに顔に右腕の影がかかっている。この造形でこの向きなのは失敗なんじゃないのか。たぶん南向きなんだろうけど。日中の半分以上は顔が影に隠れるんだから。
とにかく撮影。右から左から。こういうかぶった可能性のあるフィルムを使ってその影響を少なくするには、露出を増やしてかぶり濃度を相対的に低下させるしかない。日頃の倍で露光。400NCはあきらめるしかないかもしれない。全部撮って3枚詰め替え戻ってきたら顔がほとんど暗くて日が当たっているのは鼻くらい。それでもとにかく撮って、さらに詰め替え、もう顔が真っ暗、それでもやるだけやる。それを写真に撮ってやる商売の人間が蛍光オレンジのユニフォームでたいへん邪魔。
世界中のバカップルが集結したようなもの。カメラ持った若い白人女がExcuse Meと寄ってくるが、I'm busyと追っぱらう。こっちはそれどころじゃないんだ。そこらの連中にやってもらってくれ。
台座の上以上に上がるには30ドルくらいとられる。しかも見るとバックパックや傘も持ち込めずロッカーに預けさせられるらしい。あれだけやってまだ足りないのか。三脚は明示されてないが、まあ無理だろう。台座は地上よりは高くて、像への距離が短くなるのでより大きく写せて有利と思える。ところが、正面南端に立っても、像からの水平距離が短くて見上げ角度が大きくなってしまう。それに足への距離は近づいても、顔とかトーチへはもともと遠い分距離が縮まる比率としてはたいしたことない。結果あまり意味がなさそう。外観の写真撮影のために上がる価値は少ないと見た。
すっかり右からの光となり、もうやっても無駄だと悟ってここまで。もう時間もあるので撮ってくれの依頼にも応じるが、やりなおさせられそうな気配を感じ、めんどくさいのでさっさと消える。16時発のフェリーで帰る。『地球の歩き方』には、Manhattan行きと、Hudson川対岸のNew Jersey行きのフェリーがあるので間違えないようにとあり、これだけは役に立つ情報だったが、見てればそれくらいわかる。しかし、あとでチケットをよく見たら、Ellis島にも行けたらしい。その船はどこから出ていたのだろう。入管跡とかどうでもよさそうな島だが。帰りのフェリー内で緑青の立像に関心を示す人間は皆無。上のデッキではどうだったかわからんけど。
あんなごねなければ、たぶん1本前の船に乗れてもう少しましな光線状態で撮影できたのに。裸の箱でなくカメラバッグに入れたまま通せば、多少はX線被爆量も減ったかもしれないのに。もうちょっと調べていれば……後悔は尽きない。
Las Vegas空港では薬物検査だったし話が通じたが、ここではテロ対策だった。空港によっても違うのだろうか。Donald Reagan空港はどうだろう。名前からして不安なのだが……。
もしまた行くなら、できるだけ朝早く行くこと。フィルムは未開封の箱だけを持っていき、どうにか手検査で通し、現地で装填。あるいは体に結わえつけて金属探知機を通す手もあるが、ボディチェックなどされて見つかるとやっかいだ。でも、正直もう行きたくない。テストに出してみて、X線の被害が甚大でなおかつ相当におもしろくなりそうだったらやらんでもないが。
着いてもまだ日があり、空が青いので、フィルムを詰め替え、Battery Drで2枚。
やっと部屋の暖房が入った。ありがたい。部屋が寒いのはみじめなものだ。ビールの消費量をおさえられるのが利点といえばそうなのだが。でもワインに走ったり寒さしのぎにウォッカ飲むよりはビールのほうがよかろう。
足の発疹は赤い斑点になった。血が中で凝固している様子。ちょっとは直りつつあるのだろうか。まだちりちりと痛む。