日の出頃はおおむね晴れだが次第に雲が広がる。暗室を借りて2カ月ぶりで暗室でのフィルム装填。撮影できる見込みは薄いけれどB&Hのバックパックに詰め、三脚持って7時過ぎ出発。3 Stから西へ。
Philadelphia Museum of Artを確認。もう巻層雲だらけ。開館前なのでトイレを借りに30 St Stationへ。ここもGrand Centralのように広く高い空間。こちらのひとが広く高い空間と場所を重視するのは、やはり大聖堂からきているのではなかろうか。美術館にしろ行政庁舎にしろ、権威ある場所はみな古典様式だったりで広く威圧的な空間を持つ。日本のように木造の家で寿命が短く、1代で建てては壊すという住居文化を代々繰り返してきた民族には縁遠い。しかも、土着宗教ではもっとも格式の高い施設を20年で建て替えるという文化なのだから、建物をだいじに長く使う習慣がそもそもないのだろう。こちらの、場所の力を重視する文化も、石造りで長い時間を耐える巨大建築から来ているのだろう。特に東海岸は西海岸と違って地震が少ないので、建設技術が進んでいなかった時代にもこうしたヨーロッパ風の巨大石造建築が建てられたのだろう。
Trader Joe'sに行って食事を買い込み、Philadelphia Museum of Artに戻る。東側が正面か。コの字型の荘重なつくり。1階、東側だと長く広い階段を上がった階だが、現代の特別展室は見てもいいが見なくてもいいという程度。19世紀以降の絵画。まあ広いしそこそこ充実してるわけだが、アメリカの美術館がすべていいということはなく、LAでもそうだが寄贈者ごとに部屋が分けられていて、時代やテーマ順ではない。なので同じ画家の絵画がいくつもの部屋にわかれていてたいへん見づらく混乱する。この展示序列で部屋という単位をまとめているものは何かというと、結局のところ寄贈したコレクターたちの嗜好ということにしかならないのである。ここでも、ある部屋ではルノアール初期の透明感のある肌の若い女性の絵画がセザンヌと並べられ、別のコレクターの名前が冠された部屋にはルノアール後期の肉塊絵画がたくさん集められていて、この人はこれが好きだったんだな、ととらえるしかない。ギャラリートークもたいへんだろう。1点の前で語り、あとその部屋は見ないで他へ、という具合でどこかやっていたような気がする。Metropolitanでは死んじゃってだいぶたった人の名前ははずして並べかえてあるのか、だいたい画家別になっているが、寄贈者の名前つきで別枠の部屋もあって、最近寄贈されたとか存命中のコレクターからの寄贈品はそういうわけにもいかないということなのかもしれない。Philadelphia Museum of Artではかなり前に死んだ寄贈者の部屋もそのままあり、義理堅いというかなんというか。戦前までのアメリカ美術はやっぱり退屈。
でもここでの目玉はなんといってもやっぱりデュシャン。有名な『1.落ちる滝、……』『大ガラス』、『泉』以前の『階段を降りるヌード』『チョコレート粉砕機』だけでなく、さまざまなオブジェ、さらにはあまり見たことのない初期の網膜派系の絵画もあり、もうデュシャンは完全制覇したという気分。
マン・レイの絵画『A.D.1914』というのがあって表現主義っぽい色。こんなことやってたのか。ブランクーシがたくさんあって楽しい。
地下の版画や写真スティーグリッツ・ギャラリーは展示替えで閉鎖。
2階には西洋の甲冑がたくさん。ここにも巨大タペストリー。あと例によって地元の昔の民家の再現。あまり寝てないせいもあり、だんだんつらくなってくる。ヨーロッパ近世をちらっと見たところで13時をまわっていたので荷物を回収して食事、別館のPerelman Buildingへ。写真や服飾など。ただただつまらない。義務感で2度まわる。たまらず昼寝して本館に戻り、1階をしつこくまた見てしまう。アジア美術では日本の建物、奈良の勝福寺?や茶室を転じ室内にそのまま再現してしまっている。ヨーロッパ中世とルネサンスでもフランスの柱廊を持ち込んでいる。この、空間をそのまま再現してしまおうという執着心にはすさまじいものを感じるが、それではおそらくトポスの力は再現されない。中世からルネサンスの絵画はThe Cloistersよりたくさんあり、これを見入ってしまうのが自分でも不思議。ヨーロッパ中世を見ている途中で17時前、追い出される。しまったヨーロッパ近代をほとんど見ていなかった。どうでもいい現代美術とか写真を2度も見るよりあっちを見ておけばよかった。でももう遅い。
路面電車の道まで歩くが、どこで乗ればいいのかわからない。ただ線路が続いているだけで駅みたいな場所がない。やむなく歩いて、15 Stあたり、ほとんど路程の半分くらいまで来たところで、行き先への電車が来て、止まって客が降りている。でも赤信号で渡れない。信号が変わってわたったらあちらも青信号で走り出す。手を振ったら止まってくれた。ありがたい。昨日Septaのトークンを2枚買ったので使わないと。降りる場所には駅があってすんなり帰還。