朝から曇。南へ歩く。L'Eanfant Plazaを過ぎ、川沿いを歩いていくと煉瓦の建物が並ぶ。米陸軍の施設らしい。国防総省も10年前までは内部ツアーがあったらしいし、ひょっとして入れるのかも、と思いながら戻って掲示を読んでいたら、門番兵がやってきて何をしてると訊き、IDを提示させられ、観光客かとかカメラはないかとかどこへ行くのかとかしつこく尋ねられる。似たような手合いが多い様子。そしてここでうろうろするな、さっさと行け、と来た。公道を歩いてちゃいかんのかね。だったらもっと厳重に隠せばいいだろうに。しかもこっちは撮影してたわけでもない。軍資施設の前であやしい行動をとるのが悪いということなんだろうけど、連邦議会議事堂や造幣局のみならず大統領府まで公開してるくらいなんだから、軍隊も見学コースがあるかもと考えても無理なかろう。しかもここはAnacostia Trail Roadとかいう川沿いのサイクリングコースなのに。うわべではオープンですよ歓迎しますよというポーズを見せて安心させておきながら、突然手のひらを返したように警戒し疑ってかかる。初対面から過剰なほど友好的にふるまうが、いざとなると冷たくあしらう、というこの国のひとびとの外交態度そのままではないか。
そこから歩いてAnacostia川にかかる長い橋を渡ると一面の荒れ地。対岸を見ながら、間違った場所に来ちゃったんじゃなかろうかと不安になりつつかなり歩いてAnacostiaにつく。そこからがまた長い。しかも黒人しかいない。ヒスパニックもいないし、中国人さえもいないらしく、どこにでもあるはずの中華食屋がない。なだらかな坂に煉瓦の長屋のような平屋が続く。ここはゲットーだ。途中で道を尋ねたら、歩くには遠いからバスに乗れという。しかし本数が少ない。しかも晴れてきて快晴に。しまった……。でもここまで来たら行くしかない。とにかく歩いて11時頃、丘の上のSmithonian Anacostia Community Museum着。2時間も歩いた。アフリカ系アメリカ人について専門的に扱うミュージアムだからこの場所なのだろうが、それにしても遠すぎないか。もともとあった歴史的建築の流用というわけではなく新築の様子。でも入るとガイドツアーをやっていてそこそこの客。1917年にハーヴァード大学を27歳で卒業し、アメリカで最初のアフリカ系アメリカ人の教授となったLorenzo Dow Turnerという人物の生涯をたどる企画展示。英語科の教授で、アフリカでフィールドワークを行い言語的なルーツを探るようなことをやっていたらしい。アメリカ人が歴史好きなのは、どうでもいい神話みたいな昔までさかのぼらずに、建国が最近で歴史的事実が明確になっていて、しかも今の自分たちの生活と密接に関連していると実感できる内容を学べるからだろう。
戻る頃には雲がちらほら。ほんの1時間半ほどの快晴だった。地下鉄の駅がわからず歩くことにする。ギャラリーがあって、Alexandriaよりはいくぶんましだがぜんぜんたいしたことない。また長い橋を渡って、米海軍工場?の脇を通る。川には軍用艦が停泊している。この工場、いくつも建物があるが、古い棟はガラスが割れたりぼろぼろ。構内の大きな施設はショッピングモールになるらしいのだが……。その近くの元工場の敷地にも公園があったり何か建設中。
Capitol Hillの南には発電所のような大きな工場。行き先表示の標識にMillenium Art Centerとある。独立後300年足らずの国で千年紀か。でも歩いても見つからない。Amtrakの線路の下にはつらら。
食事後はすっかり積雲だらけ。National Air and Space Museumの別館に行こうと思ったら、5年前には出ていたらしいシャトルバスが今はないという。Dulles空港まで行かなきゃならない。今日は断念して3回目のNational Gallery。ここがいちばん落ち着く。3度目にしてようやく全体の配置がうっすらわかってきて、見たいものがどのへんにあるかおおまかに見当がつくようになった。とはいえまだ迷う。
迷ってジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールにたどりつく。鏡に映ったドクロがピントが外れている。でも、鏡や手前の台の像はシャープ。被写界深度を浅くした写真のよう。カメラ・オブスキュラでもこうはならないのではないか。17世紀とは思えない。写真を先取りしているとしか思えない。その線でつっこみすぎるとつじつまが合わなくなってくるのだけれど。ここはとりわけ明るい。シャドウ中心なので、案部がよく見えるよう意図的に明るくしてあるのだろう。
ビザンティンの13世紀があった。中世ルネサンス期には、シェイプト・キャンヴァスも先取りされていたのだった。キャンヴァスではなくパネルなんだが。
ここはもう一度こないと。3時までの限定展示が東館に。
閉館後、もう何度目かわからないPortrait Gallery/American Art Museumへ。ざっとしか見てなかった1階をもう一度見る。かなり見落としあり。チバクロームプリントがある。おそらくあそこにある写真が、もっとも末代まで保存されるのだろう。芸術的価値とは別のところで。芸術的価値なんてものは所詮虚構で、歴史的意味のほうが社会的にははるかに重要なのである。だから、チバクローム等にする理由も充分あるわけだ。
冷蔵庫に入れておいたニンニクとバーベキューソースが消えた。ハムもたぶん減っている。盗まれたとしか思えない。それがこの国、あるいは国際標準なんだろう。日本の道徳水準の高さのほうが特殊。ここも今晩までなので、ジャガイモ1個を残して食品はすべて使いきった。
7.5 300 320L 5.7-7.1 6.5