ピクトログラフィを開発なさったという人物に会ってきた。数十年かかわってこられたそうだ。
ピクトログラフィに関する正確な情報がネット上には乏しいのだが、レーザー露光熱現像転写方式のカラープリントシステムとなっている。銀塩との情報もあるが、ポラロイドフィルムのような転写型で、伝統的な銀塩方式とは異なっていたという記憶がある。少なくとも、大量の処理液を使うウェットプロセスではなく、ドライプロセスに近かったはずだ。後期型はLANやSCSIといったインタフェースを備え、デジタルデータからの出力に対応しており、メーカーとしては従来型カラープリントの代替方式という位置づけだったのだろう。前世紀末頃のインクジェットプリントに対しては画質上圧倒的優位にあったし、当時導入されはじめたレーザ露光式デジタル銀塩プリンタであるLambdaやLightjetよりもよかった。ところが、メーカーの営業戦略がケミカルなウェットプロセスのフロンティアへと先祖返りしたようで、今世紀初頭にはピクトログラフィの製造は打ち切られた。消耗品と保守部品も今年春頃にはなくなったらしい。
そのかたに「結果としてケミカルの銀塩のほうが生きのびましたね」と言うと、インクジェットに追い抜かれたと答えられたが、さほど残念そうには見えなかった。
今の仕事にはりあいがあるからだろう。
会社から与えられた仕事の裏で別の研究をずっと続けていたが、大企業の採算ベースに乗る規模の商売にはならないとされ製品化が通らず、定年退職後に完成させて事業を興されたとのこと。
かつてうちたてた業績に寄りかかる必要がない。昔の成果は過去のこととして、潰えたとしても流せる。在社中の仕事は会社員としてのつとめであって、定年後の今の仕事こそが本来の自分の仕事、という意識をお持ちなのかもしれない。そして、かつての蓄積が、おそらく今の仕事に息づいていて、無駄にはなっていないからでもあろう。
現在の事業内容というのは、技術としても事業としても先行者がいて、まったくのオリジナルとはいえないし、品質上も引っかかる点がある。それでも、幾多の苦難をのりこえて、安価に供給可能な方式を確立なさったことは、同じ技術者として尊敬に値する。事業としても軌道に乗っている様子。
ふたまわり上の大先輩だが、あの年代にあのようになれているだろうか。