ついに自前の暗室を本格稼働させ4x5の引き伸ばし。固定マスクはつくっていないが長手方向は引き伸ばし機の散光ボックス下の開口部に制約されて4x5より1mm程度の余白で切れる。4x5ならいいのだが、さらに長い原板を焼く場合には開口部を広くする必要がある。散光板はもうちょっと長いので、130mmくらいまでのネガなら対応できそうな気がするのだが、引き伸ばし機本体を改造しても散光板の限界でこれ以上広げられなかったらくやしいので、充分検証が必要。
はじめはプロセッサと一緒にもらったKodakの8x10印画紙で。感度が落ちているかもしれないが充分色はでる。おもに今年に入ってから撮影したネガを焼いていく。カラー印画紙は濡れていると青がかっているので乾燥させないと色がわからない。だから乾燥モジュールがないと効率が悪い。とCP51が置いてあったガレリアQで関さんから聞いたのだが、それは本体に2槽しかないCP51の話。CP31は3槽まであり、ネガプリントのRA-4なら3槽目は水洗にあてられるので、水洗もすんだ状態でローラーでほぼ水切りされて出てくるから、テストプリントならドライヤーなどで乾かさなくてもほぼそのまま色が確認できる。バットで水洗して乾かす手間はあるけど、モノクロだってやってたことだし、バライタにくらべりゃ楽なもの。快適。黒フチもきれいに出る。もうレンタル暗室には戻れない。だいたいのところ4x5をフルフレームで大全紙まで伸ばせる設備のあるレンタル暗室は東京にはない。
それにしてもホコリが多い。引き伸ばし時のホコリはいいとしてカットフィルムホルダで撮影したネガにホコリがおびただしく付着している。目に余る。ホルダにフィルムを装填するさいには全暗中なりに注意を払っているつもりなのに、どうしてこんなことになるのか。
これだけしくじってようやく、たりない頭でも原因が判明した。装填時に暗室内で降ったり手から落ちたり、あるいはホルダ内に残ったホコリがついてるものと思っていたが、そうではなさそうだ。露光中に写真器の箱の中に残っている糸くずなどがくっついているのだ。なぜそう考えられるかというと、神田明神の撮影前に、あまりにも箱の中がホコリだらけなのでブロアをかけて吹き飛ばしたのだが、このネガにはほとんどホコリがないからだ。露光中に付着するのであれば、クイックロードフィルムでも条件は同じはずだ。なぜ同様に露光しているはずのQLフィルムにはほとんどホコリが見られないのか。おそらく、静電気で吸い寄せられているからだろう。カットフィルムホルダはフィルムを装填した状態で振るとカタカタと音がする。フィルムが入っているかを明室中で確認するために、フィルムが遊ぶような規格になっている。これをてくてくと歩いて移動している間にせっせとホルダを揺すって、フィルムとこすり合わせてわざわざ静電気を発電していたというわけだ。ところがQLは遮光袋の中に入っていて、振ってもさほど動かないから静電気が発生しないのではないか。
なんてこった。さんざん静電気を帯びたフィルムをあんなホコリだらけの箱で1分もさらしておけばホコリまみれになって当然だ。ホコリの発生源は箱の内側の低反射布もあろうがほとんどは移動時に写真器をくるんでいる冠布だろう。去年の個展以降カットフィルムホルダで撮影したネガはほとんどがやられているが、ホコリがさほど目立たないものもなかにはある。気候や移動量の違いで帯電量に差があったのかもしれない。深大寺高尾山薬王院護国寺護国寺松平家墓標、池上本門寺湯島聖堂名古屋城、みなやられている。写真が物質であることをホコリが際立たせるとかなんとかで通せるような量ではない。とにかく箱の中身をもっと清潔に保っておけば防げたのだから、ここで妥協し完成として提示するのは本人が許容できない。一からやりなおすほかない。鶴岡八幡宮も数は少ないが目立つのがあちこち。鎌倉大仏東京大仏はさほど目立たない。でもこれでは妥協できない。鎌倉はQLもあるにはあるけれど、やりなおしだろう。養福寺の灯籠はどうにか許せる。浅草神社狛犬はほとんどホコリがないが、眼窩が暗く落ち込んでおり、目がすっかり隠れている。ネガはほとんどスヌケに近いので焼きではどうにもならない。南中近くで上からの光なので陰になるのは当然。せっかくの物件なのに、これでは納得できない。やりなおしだ。神田明神はブロアで吹いたおかげでホコリは少ないけれど古すぎて色が悪すぎ。狛犬に1枚だけ160NCがあったのだが、悲しいかな頭のてっぺんがちょん切れている。壊滅に近いありさま。無事なのはQLで撮影した西新井大師と名古屋大仏くらい。この二つはかなりうまくいっている。西新井大師は日の当たる角度も最上の条件で、屋根の擬宝珠が燦めいておりこりゃあいい。名古屋大仏は巻雲あるいは巻層雲が出ていて再撮影するつもりだったのだが、8x10で見る限りはほとんど気にならず、空も充分青い。しかしよく見ると空のムラが気になるやはり再撮影か。西新井大師が無傷だったのがせめてもの救い。でも。ポラとネガと現像代をあれほどつぎこんで、それ以上に一番いい時期の多大な時間を投入して、結局またやり直しか。この数カ月はいったい何だったのか、あのせっかく晴れていた日々は、苦闘していた時間と労力は、と毎度おなじみのネガティヴループがまわりだす。かくして連休後半はすっかりやさぐれた寝たきり中年。
この写真器での撮影は去年はじめにカットフィルムホルダで開始し、ホコリの多さにQLに代え、途中から覆い露光をはじめ、プリントしてから問題に気づいて覆い露光をやめ、QLが平面性が悪くて線が曲がるのでまたカットフィルムホルダに戻してフィルム装填時にホコリが落ちないよう留意し、という具合で幾度も失敗を重ねてきたのだった。またも失敗か。なんぼなんでも失敗しすぎ。またその失敗にしばらく気づかず、傷がいい加減深くなったところでやっと発覚してやりなおし、というのを繰り返しているのがどうにもなさけない。なぜこんなにも失敗するのか。