スポッティング(8) なおも針

買ってきた木の棒に縫い針を埋め込むためには、針の先端とは逆側の、糸通し穴付近の太くなっている部分を切断する必要がある。買ってきたままほったらかしのフリーウェイコッピングソーや金ノコでやってみるが、文字通り刃が立たない。ステンレスなんだろうか。そうは思えないが、やたらと硬い。細くて固定もしづらいし、1箇所に刃先をあてるのが難しいということもある。断念。先端から軸に打ち込んで、露出した太い側を研ぎ上げることも考えるが、どれほど研げばいいのか気が遠くなる。断念。
そこらにあるシャープペンを流用することにする。ありあわせのものを都合する点で、こっちのほうがわれわれの解として正しかった。最も短い針でも0.5mmのシャープペンには通らず、ペン先を外せるタイプに切り替えて、芯を挟みこむチャック式固定部分を露出させてくわえさせる。固定はひとまず良好。さほど頑丈ではないが、エッチングガリ版のように削りとるのでなくちょっちょっと傷をつけるだけだから、力はそんなにかからないはず。針の露出部分を短くしてしならないようにすればこのくらいの固定でも足りるだろう。
と考え、実際にやってみる。現像が上がったばかりの川崎さんかく公園のほこりまみれのネガをさっそく登板させる。ネガを保持するにはどうするか。聞いたところでは、写真館で昔から行われていた方法として、厚手の紙を2つに折ってまんなかに穴を空け、ネガを紙に挟んで穴から露出した部分を修整するという。そうすると紙の分浮いてしまい、針を押しつけると沈むのでやりづらそうだが、裸でネガを台上に置いて動かすと傷がつくし、素手では動かせないから、これをやるしかなかろう。実際浮いていて、高倍率だとピントが浅いのでやりづらい。針で押すと上下に動くので針あとが点にならずずれてしまう。スポット修整は乳剤面側に行うとのこと。KodakのTechPubでも、ベース面からだと修整部分と当該箇所がずれるおそれがあるなら乳剤面側にレタッチせよとある。シートフィルムは厚いので、特にWAタイプの広角引き伸ばしレンズを使った大倍率引き伸ばしの場合など、周辺部でフィルムの厚みの分ずれてしまう可能性はある。で、やってみたら、突くと乳剤に穴があき、スポット部分にわずかに残っているオレンジマスクまでもが剥がされて白く抜けてしまい、ますますホコリ跡が目立つ結果になる。これはベース面に行うのが正しいようだ。針はこれで充分、しかし研ぎが足りない。とはいえとがらせるのは至難。ちょっと針先をこすっただけで丸くなる。
しばらくやっていると光源の熱で乳白ガラス板が熱くなってきて、針でそこに押しつけるとフィルム表面が熱で溶けるような具合に見える。的確にこなせるようになるにはしばらくかかりそうだ。間に合うのか。これでいいのかどうか確認したいのでプリントしようと引き伸ばし機をセットするが、まだ暑さが引かずやめておく。こないだは30℃でなかなかの苦行だった。換気扇すらないので汗だくになる。無理すればできなくはないが、作業環境が悪い中でプリントしたところで、回すことだけで精一杯になってしまい、望ましい結果が出せるとは思えない。隣の部屋のエアコンの冷気を扇風機で導こうと思っていたのだが、ホコリが立つのでやめる。どのみちこの暑さもそうは続かないだろう。