印画紙について考察

25℃2m30sで処理している。カラー印画紙は発色現像液の温度の変動が発色に影響を与えると語られていたが、少なくとも、このCAStypeCをKodakRA発色現像液RTやオリエンタルBAP-1を室温で処理する限り、温度による有意の差は認められない。印画紙が優秀なのか、処理液に条件変動耐性が備わっているのか、それともこちらの要求水準が低いだけなのか。また、補充してもさほど変わらない。レンタル暗室でCP51を使っていたときは、突如として色が変わって濃くなってしまい、また1からやり直しになったのだが、あれはそのタイミングで補充されたからだと思われる。しかし今回そのようなことはない。なぜか。モノクロバライタ紙は「押し」がきくと言われる。適切な露光を与えしかるべき条件で現像し、2mである程度の濃度が得られたとき、さらに1m現像を延長すればさらに濃度が高まるという、現像進行ののりしろのようなものがあるということだ。ところがモノクロRC印画紙にはそれがない。適切な露光を与え、2mなりの現像液の規定の時間で処理して印画が出たならば、それ以上現像を延長しても現像は進行しない。このカラーRC印画紙にも同様のことが言えるのではないか。RA-4の本来の処理条件では露光量に対する乳剤の活性がまだ残っているために、発色現像液が補充され現像能力が強まると、補充前の段階と同じ露光条件でもより現像が進んでしまう。しかし、乳剤の露光に対する反応が飽和しきるまで充分な現像時間を与えておけば、「押し」がきかないために、処理時間の延長、液温の上昇、液の補充などの現像促進要因があっても、CMYの各層ともある程度まで現像が進めばそれ以上現像が進行せず、同じところで止まっているのではないか。つまり、露光した光はきっちり出しつくし、それ以外の余計な反応は抑えこまれている、と。そのため、処理条件によるカラーバランスの狂いなどの影響がなく、露光条件の結果だけが印画に反映される、ということなのではないだろうか。だとしたら、たいへんありがたい。印画紙が処理条件に左右されずに一定の結果を出せるよう改良されているのかもしれない。富士はそういった技術には長けていそうだ。
この解釈が正しいとしたら、印画紙現像を押してコントラストを高めたり、プリントの一部により強い現像液、あるいは温度の高い現像液を筆で塗りつけて、焼き込みよりも狭い範囲の濃度を上げるといった、柔軟で可塑性の高い運用を封じる傾向でもある。そのような、古典的な手作業の余地を排することで、中間素材としての処理の均一性と安定性を実現したということだろう。昔ながらの高度な手業には対応できなくなるが、そのかわり操作の簡便さがもたらされる。これは歓迎したいと思う。モノクロであればいじれる要素は必要だが、カラーは3つのチャンネルがあって複雑なので、それを高度にコントロールしようとするとたいへんな手間がかかってしまう。カラー印画紙で露出を抑えて現像をオーバーにしコントラストを上げるなどといったことをやっている人もいたのかもしれないが、ほとんど現実的ではない。CMY各色の特性曲線カーブなどが違うため、制御すべき変数が多くなりすぎる。そういった柔軟性よりも、処理条件が変動しても結果が一定していることによって得られる作業性の向上のほうがはるかに意義がある。そしてそれは、カラー印画紙が手作業向けの素材としての寛容さとひきかえに、工業製品としての完成を獲得したということなのだろう。
過大な現像量を加えて、印画紙に与えた露光に対する反応を飽和させることのデメリットは何だろう。カブリが多くなることは考えられるが、見たところそれはない。ただ、もし充分以上の現像を与えているのだとしたらムラは出にくいだろうから、はたしてこの推測が正しいかどうかはわからない。
でも、変動要因はなるべく避けたいので、このネガが終わってから補充する。しょっぱなにいちばん難しいネガを焼いてしまい、現像ムラの克服に時間を要したので、だいぶ時間がかかってしまったが、そこそこ満足できるところまではこぎつけられた。あと1、2枚念押ししてこれは終わり。でも余裕があれば別カットもプリントする。余裕があれば。