朝から特快晴。ところが仕事を上回る大一番が午前中にある。でも写真器3器を書類鞄に忍ばせ、三脚もケースに入れて持っていく。それどころじゃないはずなんだが、敗れた時の支えがほしい。立ち直れないほど打ちのめされても、三脚が杖がわりになってくれるよきっと。
三脚ケースは欧州旅行のために買ったもの。三脚を丸出しで貨物室にあずけるわけにもいくまいと思ったので。いや昔のGitzoはそうそう壊れないだろうが、逆に他の荷物に損傷を与える、と拒否されそう。本来はショートスキーのケースだとかで、値段のわりにはつくりがいいが、耐荷重はなさそう。Hus*kyQu*ickSe*tにクランプをつけた状態でほぼ収まる長さ。六本木にも持っていった。対人対物の損害を与える危険は低下するかもしれないが、かさばるし持ちにくい。パッドの形状などからして肩にかけるよりたすきがけになり。首からぶら下げる格好になる。Hus*kyは軽いからいいが、もっと重い三脚だと長距離の移動にはつらい。
で、市井の人間はそうそう入る機会のない場所にこれを下げて入ろうとしたら、いつもは何も言わない入口の警備員に中身を問われ、三脚ですと答えると、不審そうに三脚?と問い返される。かなり気が立っていたので、いらっとして中開けていいですよ、とさしだしたら、どうぞと通された。銃か刀剣でも入っているように見えたのだろう。前にここに大型リュックのフォトレック30とむきだしの三脚を持ちこんだときにはお咎めなしだった。
ビル上階から西を見ると視程は短いが雲はない。大一番、拍子抜けするほどあっさり終わり、昼前に外に出ると日射しが強く空は青い。新橋から汐留地区へ。このあたりは建物としておもしろい物件はないため外側から見ていただけで、ビルの間やビルの内部に入ったことはなかった。あちこち入ってみるが、ホテル以外はオフィスビルで、飲食店も乏しく、六本木やら丸の内あたりの複合商業施設のように観光客を呼び寄せようという趣旨ではない様子。建物が平べったいせいもあってか、高層ビルで制約が多いのか、空間の使いかたもちまちましている。どこも警備員がいて、三脚を咎められるのではないかと警戒してしまう。これはよろしくない。変に萎縮して行動を自主規制してしまいかねない。裸の三脚なら、ひとめでなんだかわかるから怪しまれないだろう、と、実際はともかくこちらとしては思いこめるので、ひるまずずんずんと突入できる。まあポンピドゥやヴェルサイユでは止められたけど。むきだしだったら、文句つけたきゃつけりゃいいんだし、スルーされればOKとみなせる。お互い安心。それとも慣れの問題だろうか。三脚ケースで運ぶのが日常化すれば、要注意人物とにらまれてるなんて気のせいだったと思えるだろうか。
そういえば、三脚を担ぐようになった当初はどうだったのだろう。ずいぶん昔なので思い出せないが、「俺は写真やってるんだ」とむしろ誇示していたような。みずからを写真家であると確認するには三脚は恰好のアイテム。撮影中は反省的に考えている余裕はないのでそんな必要もないが、撮影するあてもなくただ歩いているような時に、そうした確認の必要が生じる。そうしたなか三脚は「自分が写真をやる人間であると世間から見られている」と確認するための最大の道具となる。実際に、持ち歩ける中では最大の道具。カメラなんぞ小さすぎ。しかもそこらじゅうにカメラぶら下げている人間はいる。でも三脚担いでるやつはそうはいない。昔は銀のアルミケースが「カメラマン」の身元証明だったが、ナイロンバッグの普及と写真撮影業者の自動車移動の一般化とでそんな風景も見られなくなった。今ではスタイルも多様化したので「これが写真家」という典型像はなりたちそうもないが、昔からみな、「世間にどう見られているか」を内心気にしていたのだった。かくいう自分もいまだにそのへんをうろうろしてるのかも。
日テレ向かいの共同*通信2階の受付前には、歴代の報道用カメラが陳列されている。ピカイチはなんといってもSpeed Graphic、報道写真黄金期の象徴。あたりを払う風格がある。キャプションに「スピードグラフィックは新聞カメラマンの名刺がわりだった」。1950年代には、フラッシュガンをつけたスピグラこそが「カメラマンのあかし」だったのだ。おそらく、職業としての写真撮影者がもっとも輝かしかった時代。飾ってある日本人カメラマンの群像では、みんなスーツに帽子、このことばは好きではないけどあえて使うと「粋」だった。フラッシュガンもいろいろ展示してあって、あまり見たことがないのでおもしろい。野球の撮影に使われたという、レンズ入りの望遠仕様のフラッシュが興味深い。NikonF2だったかを改造して、ミラーで結像をPolaroid545系ホルダ内のシートタイプポラロイドフィルムに投影してインスタント写真を得るというカメラもあった。いろんな工夫を凝らしていたんだなあ。アサヒペンタックス6x7のキャプションに「今でも製造されている」とあるのが悲しい。この機種が報道の現場で盛んに使われたとは考えにくいが、グラフ誌で使われたという意味だろうか。
中銀カプセルタワービルは設計者が没しても建ってはいる。だがビルの隙間に埋もれてしまい、高いところから見ると地上から見るより弱々しいばかりか、すすけて、窓には洗濯物も見えて生活臭漂う。築40年足らずであそこまでいくものか。建て替えが決定したらしいが無理もない。ほぼ4年前にSinarで撮影していて、いつかやろうとずっと思っていたのだが、もうよかろう。あれが今に至るものをはじめた最初期か。あとは、視点を変えてもこのへんにとりたてて目を惹くものはない。
ひとしきり回って、13時過ぎには雲も出てきて、へとへとで眠いので新宿でネガ引取とネガ出し。葛西臨海公園は不発。ハンズで器の素材切断。3器分で200円くらい。Kodak400NCをついに購入。室内ではこれをさらに増感するのがたぶん唯一の現実的な解。