こうも考えられる。バーゼルの路線バスに乗った際の切符、ベルリンへの夜行列車の乗車券、ホステルの支払い明細、そうしたものが記憶を呼びさますのは、それらが、バスに乗ったあの時に買って持っていた他ならぬその切符そのものだからである。以前も述べたが、ひとり写真だけが回想の機能をになうわけではない。こうした紙切れや土産物も、特定の回想に結びついてそれを引き起こすトリガーとなるという点で写真となんら変わりない。むしろ、その時ともにあった当の「もの」であるという点で、そうした関係づけを間接的にしか与えられない写真よりも、記憶との結びつきがより強固となる。
写真のみが特権的に記憶と結びつくなどということはまったくない。去年の旅行で写真など撮らなかったベルンやストラスブールの街角を、さまざまなできごとを、今でも鮮明に思い出すことができる。回想にあたって写真などまったく必要がない。1822年以前の人間も回想や記憶の想起はなんの支障もなく行えていたはずなのだから。