「コンテンツ」の終焉

必要がありストックフォトを物色。
惨状に驚いた。
15年前に買った写真素材集のCD-ROMに入っていたカットがいまだに売られている。しかもCDが全部で7,000円くらいだったのに1点2万とかで。新作を備給する余裕すらないのだろうか。昔の資産でずっと食いつなげるのであれば楽な商売だが、ネットや市中の広告でしばしば見かける絵柄もあって、もう使い古しにしか見えない。こんなものを堂々と並べといて見放されないのだろうか。
CD-ROM素材集もひどいもんだった。特に、モデルを使ったオフィスとかのシチュエーションもの。100点程度の内容はだいたい1回のロケなので似たりよったり。使えるのは2、3点。そんなのが20年たってもまだ売られている。
だが、新作のストックフォトは経費が抑制されている分一段としょぼい。
数社のサイトを覗いてみたが、国内の数社では、仕入先が共通なので品揃えはだいたい一緒。同じカットが使い回されていて料金設定も同一。価格協定にはあたらないのだろうか。
数万払っても使いたいと思えるのはどこにもない。モデルはもうちょっと金かけろよというようなランクばかりだし、頭が切れてたり構図が甘くて使いづらい。それに、機材も古いせいか白飛び頻発。こんな代物をおおっぴらに売る経営姿勢には脱帽するほかない。
レンタルポジ時代のストックフォトはピンぼけがときどきあり、デュープだとさらにピントが甘かったりしたものだが、今はどんなヘボでもピントだけは来てるのが唯一の向上点。でも「セレクティヴフォーカス」とかぬかす逆アオリが溢れててうんざり。
ちょっとましだと思うとライツマネージドで、5年で7万とかとられる。いろいろ制限もうるさい。ロイヤリティフリーの写真は「素材」だがライツマネージドのほうは「作品」だから加工や改変の場合には別契約ということらしい。そんな畏れ多いお芸術に大枚はたいてありがたく拝借させていただくくらいなら、自前でもっと納得いくのを用意するって。あんなの今時どこが使うんだろう。少なくとも出版社、20年前にはレンタルポジ業界の主要顧客だった斜陽産業にはまず無理だろう。
ライツマネージドのほうがロイヤリティフリーより新しいのが多そうだが、ライツマネージドは使用期限があるためにどんどん回転していく一方、ロイヤリティフリーは売り値が安い分、元をとるべく売れるだけ売ろうといつまでも店晒しにしておくからだろうか。
ライツマネージドもロイヤリティフリーも意外に値崩れしてないと思いきや、マイクロストックフォトというジャンルで価格破壊が進んでいた。主流はこちらに移っているらしく、4Kで3,000円程度からと安いのだが、質も値段相応。モデルがさらにアホっぽい。この売価ではまともなプロのモデルなど雇えないだろう。最近でてきたところでは、サイズを問わずjpg5点で6,000円という大廉売もある。購入の期限は1年間。ヴォリュームディスカウントしてでも見かけの売り上げを増やしたいのだろう。過当競争きわまれり。stockxpert.comのように撤退したサイトもある。
また、より高価格設定のストックフォトサイトにあるカットの類似カットがマイクロストックサイトに出ていたりする。没カットらしく、見るからにしょぼくて使う気が起きないが、その分安い。国内大手4社ともこれをやっている。どこでも、マイクロストックフォトは単なる2線級のストックフォトという位置づけのようだ。
さる大手ストックフォト系列のマイクロストックフォトサイトでは、他社と同一カットらしきものが並んでいるのだが、他社は長辺5060pxなのに、こちらでは5000pxなどと丸めてある。系列の大手ストックフォトでは同じモデルの類似カットが5060px。全体にこうなので、おそらくオリジナルは5060pxのところサイズのきりをよくして統一させるためリサイズしてあるのだろう。だが、こんな半端なリサイズをされても、使う側にとってはまったく意味がなく、無駄に品質が落ちるだけである。品質の低下はわずかかもしれないが、問題はそこではなく、画像品質に対する意識の欠如のほうである。この分では非可逆圧縮を何回繰り返してるか知れたもんじゃない。他の業者ではピクセル数に比して妙にファイルサイズが軽く、圧縮率も高そうでノイズもさぞや盛大と思われる。サーバ費用も圧縮したいのだろうか。
全体に彩度高めなのは共通。一眼レフ機が主流のようでアスペクト比はほとんど2:3。しかし、とにかくどこも程度が低すぎる。
4ジャンルで内外含め10数社調べて同様だったので、ストックフォト全般にいえる傾向と見なしてさしつかえあるまい。
結局、最安の業者から購入。こんなもの安くすますに限る。質なんて値段ほどの差はない。30倍払ったって白飛びしてるんだから安モノで充分。
でダウンロードしたんだが、解像度は明らかに水増し。ボケボケ。値段なりってことだ。ある程度予想はしていたが、こんなものを束で買ってしまった自分の甘さが腹立たしい。
国内でのこの業界の売り上げは、この数十年でほぼ横ばいだそうだ。日本円の低金利という事情があるにせよ、かつては印刷業界だけの狭い市場に限られていたのが、webという格段に広い売り先ができて、販売数は確実に増えているにもかかわらず売上が増えないということは、それだけ単価が下がっているということだ。誰もが「安モノで充分」と考えた結果にちがいない。しかも海外からの参入障壁も下がり、日本語サイトを開設している業者でも半分くらいは外国資本。写っているのが日本人なのか中国人なのか微妙なのもあったりする。アジア各国が本格参入してきたら、値崩れはとめどもなく続くだろう。
それでも、中抜きする側の、場を提供している業者は、熾烈な競争を勝ち抜けば生き残れる余地があろう。深刻なのはむしろ、店子であるコンテンツ制作者のほうだろう。
各社ともどんどん点数を増やしているが、これで生計を立てようとは考えていない、なかば趣味のプレイヤーが、採算度外視で続々と新作を供給しているようだ。すさまじい量と競争である。もはや既得権で食っていたかつてのプロなど退場を余儀なくされるだけだろう。こんな中ではい上がりのしていけると考えているとしたら、それはたいしたドン・キホーテである。
そんな下界とは関係ないよとばかりに、ハイアートの文脈という聖域に安閑とお住まいの方々も無縁ではすむまい。ハイアートの神通力がそがれていく中で、権威に支えられた安全地帯で保護してもらえるなどという期待も時代遅れの幻想となっていくだろう。この流れは変えようがない。「作家」の先生もこうした傾向に否応なく巻き込まれるだろう。
「コンテンツビジネス」に先行きはないとあらためて確認したことであった。そしてまた、撮った写真を「作品」と称して陳列し買い手を捜す社会的行動はすべて、「コンテンツビジネス」の域を結局のところ出るものではない。
さらには、「おわったコンテンツ」なる理解は誤りである。コンテンツに終わったものと先に続くものとがあるわけではない。とうにできあがったジャンル/メディウムの内容物=コンテンツの枠内で努力すれば成功できるという目算がもはや通用せず、そこで参照例とされてきたロールモデルそのものが過去の遺物なのである。みなやり尽くされて、手垢にまみれきっており、しかもあとからあとから沸いてくる世界中の同種との絶え間ない競争にさらされなければならない現在にあっては。