層積雲か積雲と高層雲が空一杯。今日の撮影はないでしょう。今回はここまで、か。PlaceMに印画紙に筋がつく件で連絡すると、ただちに解決できるものでもない様子。そんなに目立つものでもないし、あきらめるしかないか。かかるコストを考えると釈然としない思いは残るけれど。
で結局晴れないまま暗室、なんだが、カゼがひどい。こんなものいつもはひと晩汗かいて寝てれば翌朝にはすっきりしゃっきり、なんだが、なんだかずるずる引きずっている。昨日銀座巡りなんかするんじゃなかった。クリエイトで昨日のネガ引き取り。ビッグ*サイトの8枚は1枚で先がネガのノッチ側の穴にかかっているだけで、あとは切れてもおらず上々。あれだけポラ消費すればあたりまえだ。ソリッド*スクエアは……すまんろくすっぽ見てない。ヨドバシに取り置きしてあった大全のフジCGを買って新宿御苑へてくてく。瀬戸さんがいたので印画紙の傷を見てもらう。彼も当初は印画紙のせいだと思いたかったようだが、プロセッサに斜めに吸い込まれてしまった紙には斜めに跡があるのでプロセッサに起因すると認めざるをえない。安定の2層と現像定着の2層の駆動系ローラーを見るがそれらしき原因はない。「これ以上は対応できない」と瀬戸さん。しかし乾燥部分を解体することに。その後バタバタと出入りが続く中待つこと1時間。解決してしまった。原因は乾燥部分のテンションのかかりすぎらしいとのこと。たいしたものだ。
瀬戸さんの最近の写真は正直よくわからないが、かつてのモノクロ8x10ネガによる数十メートルのロール紙プリントは、写真における技術的達成のひとつの極であると断言できる。技術というより土方作業に近いものかもしれないし、技術的水準がとりたてて高いというわけでは決してない。とにかく誰も面倒でやらなかったことを愚直にも、しかも思いっきり大がかりにやってしまうのがすごい。部屋の中にある雑多な物をのぞき見的興味に訴えて見せるために、大型ネガから大伸ばしして細部がじっくり見られるようにする。それは制作意図の反映としてよく理解できる。しかしこの人は現像液にMicrodol-Xの原液を使っていたのだ。代表的な超微粒子現像液ではあるのだが、通常は35mmなどの小型ネガで微粒子を実現するために用いられる現像法であって、8x10ネガにこれを使うなど聞いたことがない。一体どこまで細部を見せたいのかという話だ。尋常ではない。でかく引き伸ばして、なおも微粒子にしようというその常軌を逸したあたりがぶっとんでいる。写真の内容としても、その後ゾロゾロと量産されることとなる演出的、あるいは演劇的な室内人物写真のネタ元となることでオリジナリティを獲得したわけだが、それよりもあえて技術的側面に注目したい。というのは、瀬戸正人のかつてのシリーズの技術的関心が受け継がれているという点で、彼の制作の系譜に連なっているのは、現在の「picnic」と名づけられた写真群ではなく、むしろPlaceMやdarkplaceやワークショップの活動のほうではないかと思えてならないからだ。さらに、広義での技術というべき実際の制作プロセスに属する、現場での他者との交渉という点でも、写真撮影の場よりも暗室やワークショップでのやりとりのほうが感興に満ちているように傍目からは見える。かつて数十メートルの手現像モノクロプリントをやってのけた写真バカぶりは、新宿の雑居ビル内に濾過フィルターを介した排水設備つきの多人数用暗室を作り上げてしまうイカレ具合に通じるものがあるし、そのクレイジーさ加減が夕方6時から翌9時までそこをレンタルしようというまともな勤め人とは思えない客にも伝播しているのであろう。
ああいうことは今まで誰もやらなかった。ワークショップ+暗室+レンタルギャラリーでセットになるような商売には疑問を抱く向きもあろうし、個人的には暗室以外に参加する気はないけれど、これを必要とする人であれば写真学校などよりもはるかに開かれたシステムで参加しやすいだろうし、たぶんそこらの写真学校よりも得られるものは大きいだろう。社会的意義のある事業だ。それを運営し、それもただふんぞり返って人を使うのでなく、プロセッサの不調までみずから直してしまう、そうしたありかたに率直に敬意を抱く。写真なんてやる気なくしているくせにどっかの大学で先生風を吹かす一丁上がったアーティストのお歴々よりもずっと立派だと思う。
まずはビッグ*サイトのネガ選択。1、2はフレームの追い込みが足りず突端が端から離れている。3は逆にはみだし。4は突端がノッチ側の穴に接するか接しないかのギリギリまで切迫。5は4とほぼ同フレームだが、対象上端部に正体不明のにじみ。露光途中でフィルムが動いたのだろうか。しかしエッジ部分以外はさほどぼけていないので理由がわからない。6は突端が穴の上。まずまず。しかしこのあたりから光がマゼンタがかってくる。7、8は突端の腰が引けている。8x10に伸ばして比較し、4と6で決めかねるのでこの際両方を大伸ばしとする。20x24の印画紙500円。これ1枚で、飲みたいビールをこらえて節約している額が軽く吹っ飛んでしまう。しかし、これほどの思いをして撮影したネガなのだし、これ以降発表できるあてもないのだから、ある程度出費しても妥協せず納得いくものを出したい。
4は空が滑らかでなくうっすらまだらがある。2はそれがさらに顕著。6はそれがないのだが太陽光の色温度とのかねあいで全体の色がどうなるか疑問。結局3枚ずつ伸ばして、6のほうがあとから伸ばしたせいもあり赤みがとれて好ましい金色に近づく。水没ネガのコンタクトプリントと比べてしまうと、光線状態は劣るかもしれないし、QLなので直線の曲がりが目につく。右下のアーケードが低いのと屋根のちょっとしたでっぱりがないのはいいことだが、光線状態と曲がりを補うほどではない。でも、いまさらくらべても詮なきこと。ともかく今回の展示に間に合わせられるだけでよしとしよう。
これで22時を回るあたりか。あまり時間がないので、新たなネガに手をつけるのでなく気に入らないプリントの焼き直しに回す。国際水泳場焼き直し。これまで焼いたプリントを、見れば見るほど焼き直したくなってくる。特に白やグレーの建物はニュートラルが出ていないと厳しい。特に目に余るこれ。
でタイムアップ。明日はどこまで行けるか。あと一回しかない。土曜の朝までやるという手もあるが、夜は搬入、翌日は4x5、6x7、135のフル装備で労働しなければならないので、体調も悪いし無理しないほうがいい。とにかく泣いても笑ってもあと一日。