鑑賞対象としての版画のさまざまな技法が開発された数十年前には、版画家それぞれが独自の技法をあみだしており、オリジナリティのある版画では技法が内容そのものだったという。その時代の版画とは技術オリエンティドな試みが主導的なジャンルだったのだ。現在では競ってあらたな技法を開拓するといった熱気には乏しいように見えるが、そうした時代を経てきたジャンルであるせいか、いまでも版画の鑑賞では技法が中心的主題となっている。凸版・凹版・平版・孔版といった版式への理解が見る上で助けになるばかりでなく、より細分化された技法は分類の基準とされ、流通上の実用的役割も担っている。とにかく、版画を見て木版画リトグラフかわからないようでは入口にも立てないわけで、最低限の技術的理解は版画を見はじめた人には必須とされる。制作者が具体的に工程を説明しやすいということもあり、一般の鑑賞者にも技法への関心が高いと思われる。みな、「どのようにしてそれが作られたのか」を知りたがるのだ。ありきたりな「なぜそれが作られたのか」ではなく。
「なぜ」と問うなら、次のようにこそ問われるべきである。すなわち、なぜ鑑賞対象としての写真というジャンルではそうはならなかったのか、と。