朝から特快晴。やや透明度低く、また昨日のように昼前から雲が出るような予感もある。しかもメガネがないのでろくすっぽ動けない。でもこの時期こんな好天で出動しないわけにもいくまい。矯正なしの裸眼でどれだけ写真がやれるかの実験として繰り出してみる。
目白から鬼子母神。しかし着いてみたら背後にでかくビルがあるし木に隠れていて、あれこんなだったっけ。建物のたたずまいがいいのでそれしか見ていなかったのだろう。早々に断念。境内に鳥居があって稲荷神社が入っており、神社なのかと思っていたらここは仏教らしい。どうりで穏やかだと思った。そのわりには「本殿」となっていたり、よくわからない。戻ってこちらも気にかかっていたが行きやすいのでつい先送りにしていた神田明神。鎌倉あたりならともかく都内の神社仏閣は特に連休だからといって混んでないだろうと思ったら、婚礼業界は繁忙期らしい。しまった。ほんの1時間ちょっといる間に笙の音に乗ったご一行が2度通る。いったい何件つめこんでいるのか。しかしまあ金を落とさない闖入者の分際で文句も言えない。宗教的戒律とは縁遠そうな雅楽士の一団に撮影許可はどこでもらえばいいのかときいたら、本とかに載せるのでなければOKというので店開き。
ここは神社にしては堅苦しくなくておおらかでいい。婚礼ビジネスやってて拝殿の先までわけのわからん連中を上がらせちゃうのにもったいぶっててもしょうがないのだろう。しかし最初にこの商売を始めたという東京大神宮は格式ばっている印象を受けるので、そっちの商売をしているから親しみやすいとも限らない。神田明神は昔から民衆に親しまれてきたということなのだろうか。社殿はコンクリだが戦前の建造なので歴史はあるし、神社らしからぬ瓦屋根で堂々たる構え。漆塗りでにぎにぎしく彩色されており、総じて色合いの地味な神社仏閣としては映えるほう。ただ背後のビルが目障りなので正面から撮影する気はしない。一方狛犬は向かって左がとなりの札売ってるところと近すぎたりでどうにもならず、右の「阿」と思われる大口開けたほうはいろいろやってみたが社殿か南西のビルがかぶってしまう。そこで狛犬と社殿を同時に写し込むということをやってみる。狛犬だけだとグレイで華がないので朱塗りの屋根は空にも映えるしこいつはいい。セットしポ*ラ2枚切ったところで、フレームの隅に明治**皇が立ち寄った記念とかの石碑が入ってくるのが気になりだす。それが受けいれがたいというよりも、今やっている一連の写真群については、そういった歴史的・政治的な意味合いを過剰にまとってしまうことは避けたい。そこでフレーミングとしてはほぼ完成しているのだがやりなおし。しかし画としてはもとのほうがいい。泥沼化。ポ*ラ5枚くらい切ったろうか。どうにか石碑を追い出しいざ撮影。と思ったらご一行さまが式を終えて社殿から出てきて、どっちから関西の家系らしく社殿の前でながなが撮影などやっている。いい加減にしてくれ、などと言えた身分ではない。13時前から露光開始。ところが、なんのフィルムを入れたか忘れてしまった。10年以上前のジャンクフィルムなのだが、PRO100かISO160の雅かはっきり思い出せない。ままよと160の感度で行くことにし、でも古いネガだから多めに露光をかける。ISO160にてEV15.6、70sとか適当。下に向けつつ5枚露光、うち一枚のみPRO160NC。
この間とりたてて支障なし。通常とさほど変わらずに作業ができる。何が違ったのだったか。メガネをかけていなかったのだ。対象の見当さえついていれば、焦点板は至近から見られるし、ポ*ラも近くで見られるので構図の確認は充分可能。光学系を直接覗いて作画をコントロールする一般の一眼レフカメラレンジファインダーカメラでは基本的に正視であるか視度が合わされていないと操作に支障をきたすが、ビューカメラであれば近視でも難なく操作できる。メガネを外してピングラを見ることもあるので、むしろメガネがないほうが投影像の確認では有利ともいえる。逆に極端な遠視だと操作しづらいかもしれない。
日常生活においては、われわれ矯正視力者は身体的劣等者である。以前も書いたように近接撮影に特化したマクロレンズのような眼球特性であるから対象に近寄って仔細に観察するという能力には長けており、全盲者とは違って視覚上の適性が通常と異なるだけと考えることもできなくはないが、それにしても日常生活では不便な局面がはるかに多い。メガネという身体能力の矯正機器が普及する前なら確実に淘汰されてきた遺伝的素因保持者である。カメラというのは単純に視覚的再現機器であって、視覚の矯正/補完器具ではない。その意味で、およそ創意のかけらもなく決まり文句として語られてきた、視覚の延長やら拡大などというものではまったくない。そうした用途は望遠鏡やら双眼鏡、そしてまたメガネの役どころであって、カメラ自体はそのための道具ではない。つまりそれはレンズの機能なのであって、カメラに特殊レンズを装着すればそのような機能も持ちうるが、カメラ本来の領分とは異なる。写真が未知の情報をもたらしたのは単に、僻地や特殊な場所まで連れて行ってくれる交通機関の発達と、それに乗じてあちこちから目新しい視覚的対象をかき集めてくることを使命と心得た連中がもたらした恩恵であって、カメラはその道具にすぎない。もっとも原初的な形式の写真器は視覚的劣等者であってもどうにか使えるけれど、それ以降のカメラの進化は視覚的劣等者を排除する方向に進んでいる。少なくともアイレベルファインダーやレンジファインダー、あるいはただのビューファインダーが装備されたカメラで、-6ディオプターといった強度の近視に対応する視度補正機構がオプションであれ用意された製品は見たことがない。
ビューカメラでは構図の確認は近視でも可能だが、ピントの確認は肉眼ではやりづらく、ルーペがあったほうがいい。そうすると、強度の近視の場合ルーペの視度補正では対応できなくなる、と思われるかもしれない。だがルーペのはかまをはずすなり、前後逆にするなりしてルーペと対象の距離を調整すれば、近視者でもルーペは使えてピントを合わせられる。メガネなしでも撮影の手順はなんら支障なく遂行できる。こういう単純な道具はツブシがきくのだ。デジタル一眼レフカメラの液晶ディスプレイも近視眼で観察可能だが、あれは少なくとも現状では撮影後の画像確認のための装備であり、撮影時のモニタリングには使えない。レスポンスも悪いしピントなどわからない。光学ファインダーでモニタするからこその一眼レフなのであり、その点で視覚的劣等者への対応はフィルムカメラとなんら変わらない。
そう考えていくと、焦点面に置かれたすりガラスを観察するという、カメラ・オブスキュラ以来の形式、もっとも単純であり、生きている化石というべき、いやひょっとすると死んでるのかもしれない、この愚鈍で時代遅れな形式は、実は写真機としてはもっともバリアフリーに近いと結論される。これはそうした意味で最大の普遍性をもつ写真撮影デバイスと見なせるのではないか。とはいえ市場的にデジタルカメラに完完敗なんだから普遍性も何もあったもんじゃないか。
その後神田明神の門を撮影。これはあでやかで立派な門。14時くらいで左側の木にやや影がかかる。正午が適当か。公道の真ん中に三脚を立てる。車が来てもどうにか通れるが、T字路のど真ん中でかなり迷惑。もう10日もたっているので詳細は忘れたが70s程度で4枚。手動巻き上げカメラを使っている初老の夫婦から、ピンホールカメラですか、と声をかけられ、暇ならある程度は快く応じるし、フィルムの露光中であってもまあだいたい受け答えはできるのだが、ちょうどポ*ラの露光の開始と同時に割って入られたので、5秒の露光と30秒の現像時間中は邪魔されると困るわけで、悪いけど邪険な対応にならざるを得ない。石畳で正面位置を出していたのだが、途中でずれているのに気づく。ポ*ラも使い切ったしいたしかたなし。ポ*ラ7枚とかそれ以上使ったはず。撮影後ちょうど雲が出てくる。
ひとしきり撮影して湯島天神へ。建物はやっぱりだめだが、狛犬がなかなかよろしい。通常は前足の片方で邪鬼やら玉やらを転がしているのだが、ここでは左右とも片足が浮いている。持ってかれたのだろうか。面構えもよろしい。撮影か、とも思ったが、連休中でテキ屋が出ている、午後では顔に影が差す、ポ*ラを使い果たした、そして雲が出てきた、4つ否定要因が重なったので見送り。いずれまた午前中に。
宝林山霊雲寺。遠目にはえらくりっぱだがコンクリ。ゲタはいた二階建て。御霊社ひっそり。
水道橋クリエイトの夜間ボックスに撮影したネガをホルダごと投入し、後楽園の場外馬券場にたむろする中高年連中と何やらのライヴとかに集結したお嬢さんがたとをかいくぐって丸ノ内線で池袋。ハンズのメガネ屋を下見してからサンシャイン2階のメガネ屋Zoffへ。3プライスの安メガネ屋では屈折率1.50のレンズが一般的だが、ここはやや高屈折率の1.56でより薄型に近いらしい。それより、5年前につくったところは度が強いので割増料金の薄型レンズしか在庫がなく、並料金のレンズだと取り寄せになると言われて、そんなあからさまな値段つり上げ策略に乗せられるわけもなく数日待たされたのだが、ここはそのようなことがなく即日渡してもらえるのでありがたい。ただ、セルフレームだとレンズと角膜との距離が調整できないのでメタルフレームがいいのではと勧められ、あれも策略なのかもしれない。とはいえ視力測定はきっちりやるしだいぶ良心的。1時間弱で渡されて5,250円。こんなことならもっと早く調べてつくればよかった。あとから見ると、フレームが一部削られてて、左右のレンズの厚みがだいぶ違い視力はそんなに変わらないはず、コーティングの色も違う。右目用は緑に反射する赤青カットのマルチコードだろうが右目用がマゼンタに反射する緑のみのシングルコートに見える気もするが角度にもよるしよくわからない。気のせいかも。いずれにせよコンタックスのTスターコートみたいなぶ厚いコーティングではなく頼りないコーティング。でも前はシングルコートだったのでだいぶまし。30年間、メガネは壊れてからあわてて次をつくるということの繰り返しだったので、メガネの予備を持つという習慣がなかったのだが、ここでもう一つ買ってもいいかという気分。
bでポ*ラT51の今年1月期限のを発見。半額。これは本来、モノクロネガを得るためのインスタントフィルム。ポジの紙焼きもついでにできるのだが、コントラストが高くあくまでおまけ。大坂寛がかつて一連のヌードのプリントで使っていたのはこのあたりだろう。ネガも込みなだけあってT53あたりよりちょっと高い。高感度のT57なみ。ポ*ラの在庫も補充したいし、せっかくだからなくなる前に使ってみようかと購入。ただ、ネガとして使うにはすぐに露光する必要があるらしく条件は厳しい。ま、そのへんの確認の意味でも。と思いレジに並んだら、期限切れだというので店員が騒ぎ出し、こっちは承知なんだけどもっと安くしてくれるんならと言ってみたら、ながなが電話の結果「どうしてもとおっしゃるなら9割引で」と。エッ。耳を疑った。ほんとに。9割、引き。そりゃいただきますよもちろん。3割4割あたりまえとかつては謳っていたわりにはどってことないとbをみくびっていたのだが、はじめて3割4割あたりまえの底力を拝見させていただきましたよ。他の店舗でも期限切れを買うたびに半額以下にならんかと尋ねてみたのだが無理とのことだった。でもこれで前例ができた。なんたってレシートがある。これこれ、ここをご覧の同類諸兄はレシートもないのにまねしちゃだめよ。壊れたコンパクトデジタルカメラもこれで帳消し、と思ったらやっぱりバッテリー切れだった。ちゅうかニッカド単三電池と充電器がいかれているとしたらあんまり喜べないんだけど。ともあれまあいろいろ。