先日、ある高名な美術家の先生から、この日誌について、珍しく暗室の話じゃないから読んだけど、暗室の話はきつい、あれはなんなんですかね、と言われたのだが、臆することなく長々と書きつづける。ひとつにはあとあと暗室作業のデータや処理の詳細を確認する必要に迫られる自分のために、次は参考にしてくださる数人のために、そして、かつてカラー写真がこんなにも煩雑な作業を経てなされていたという一例をいつか知るであろう誰かのために。あいにくだが営々と書き綴るので、ご関心のない向きは当日誌の「暗室」カテゴリーに属する記事を無視願いたい。
発色現像液を湯煎したらあったまりすぎたのでPETボトルに入れ冷蔵庫で冷やす。補充液も希釈。錠剤型のpH校正液を溶解してpH計をつっこむと、また8.63とかいう信用ならない数値を出してくる。でもこれに頼るほかないので10.00に校正し、発色現像液を量ってみたら10.37。水酸化ナトリウムを小指の先ほど入れてから、アルカリに傾いているのだから酸を入れなきゃならなかったのだと気がつくが遅い。10.44。でもCD-4を加えてpHが下がるはずなのになぜ上がっているのか。もうさっぱりわからない。10分も立つと数値がころころ変わるし。氷酢酸もあるけどめんどくさいんでこれでいく。
さらにテスト用の撮影。EV13.3/EI1600で60s、これは短すぎた。まあいい。残っていたPro160sで80s。
エアコンをつけ隣の部屋まで冷えたところで処理開始。昨日の2枚を発色現像7m30分から。結果、ちょっと濃いか。pHが高いせいか。2回目、Pro160sを含む3枚を7m15s。まこんなところか。ネガのハンガーへの装填方向を逆にしてみたのだが、ムラがつく側はネガに対しては同じだった。ハンガーから見ると逆。現像工程上ではなく露光中か保管中の写真器に起因する問題のようだ。しかしどうにも説明がつかない。
何度か校正してpHを測ってみたら10.20。なんじゃそりゃ。ここで56mL補充。で10.22、数分後には10.19、2時間後には10.08で規定許容範囲内。さっぱりわからない。
とにかくいよいよAのネガ。まず5枚、7m15s。やっぱり薄い。pHはなぜか10.05の目標値。ほんとか? 補充したら10.04。下がるはずないんだが。次5枚、補充して前日の3枚、いずれも7m30s。補充して終了。5回転。
 
カラーネガフィルム増感現像のための薬品作製法と処理条件 第3版

  • 発色現像:浄水器で濾過した水1,686mL+オリエンタルカラーBAN-1R各ボトル全量の1/7でA液810/7=116mL・B液206/7=29.4mL・C液206/7=29.4mL(それぞれ投入後2m攪拌)+CD-4 7.6g+フィルム用スターター48mL+水酸化ナトリウムをpH10.05±0.05になるよう適量添加 → 1,905ml

     ・7m30s(30℃)、初期攪拌後、30sに1回攪拌

  • 水洗:水道水

     ・30s(室温)

  • 漂白:浄水器で濾過した水600ml+オリエンタルカラーCNL-N2R 1,200ml(使用前後ボトルを振ってエアレーションし再生) → 1,800mL

     ・1m30s(30℃)

  • 水洗:水道水

     ・2m10s(室温)

  • 第1定着:古い第2定着液

     ・2m(30℃)

  • 第2定着:浄水器で濾過した水1,800mL+エコジェット タイプJ1 N-3 15錠

     ・1m40s(30℃)

  • 水洗:水道水

     ・2m10s(18−42℃)

  • 安定:オリエンタルカラー CNL-N4R 8L用原液が84mL、21mLに浄水器で濾過した水を加えて1.8L

     ・2m程度(室温)

  • 増感用発色現像補充液:浄水器で濾過した水543mL+オリエンタルカラーBAN-1R各ボトル全量の1/7でA液810/7=116mL・B液206/7=29.4mL・C液206/7=29.4mL(それぞれ投入後2m攪拌) → 補充液714mL 11.2ml/4x5
  • 漂白補充液:CNL-N2R → 2mL/4x5

 
使用液のC液をちょっと入れすぎた。各液投入後2m攪拌のはずが忘れてた。補充液の希釈率は単純に標準現像用補充液の1/2にしてみた。補充は原液をメスシリンダーで量ってそのまま投入できるCNL-N1Rのほうが楽だが、標準の補充液より濃くできないので、増感の場合はC-41互換のBAN-1Rのほうがいい。補充量については、Kodakのデータシートz131_03.pdfから、Table 3-2のFLEXICOLOR Developer Replenisher LORR、PORTRA 400NC/VC/UCの部分を参照した。高感度フィルムの場合に補充量を増やす必要があるらしい。なおz131_05.pdfの5-29を見ると、現像温度が低い場合、赤より緑、さらに青の濃度低下が激しい。さらに5-30では、現像時間を延長すると緑より赤、さらに青の濃度上昇が激しい。したがって、推奨温度より低い温度で長い時間をかけて現像する目下の方法では、見かけの濃度は保てても、ネガが赤寄りになると予想される。ただ、各色のカーブが平行移動するだけで、カラーバランスはさほど悪化しないような気もする。これは理解できるのだが、5-45では、漂白の補充量が多すぎるとネガの最大濃度が下がるとなっていて、これが謎。時間をかけて金属銀の全量をハロゲン化銀に戻してやればいいものと思っていたのだが、漂白過多などということがありうるのだろうか。漂白不足で銀が残ってネガの濃度が不必要に上がることはありうるだろうが、漂白が進行しすぎてネガの色素画像に影響が及ぶとは思えない。漂白不足については触れられているが、漂白過多についての説明はない。tokyo-photo.netを見てみたら、「モノクロと違う注意点としては、カラーの色素は強い酸性で失われてしまうという事で、そのため使用する処理液のpHには制限があります」とあるが、これが関係しているのだろうか。そういえばモノクロの定着液はpH4くらいの酸性だが、エコジェット定着液はpH8くらいでアルカリだった。それにしても、こんなデータを出しているとはさすがKodak富士フイルムはこんなグラフ公開していない。FujiUSAはわからないが。